フォールトアボイダンスとは? 事例や目的を分かりやすく解説
ITシステムが社会のあらゆる場面で利用されるようになり、私たちの生活はこれまで以上にサービスの安定性と信頼性に依存するようになりました。それと同時に、システムの障害やエラーは、個人の生活から企業のビジネスまで、多大な影響を及ぼすようにもなりました。いま、システムの安全性と効率性を維持しつつ、潜在する問題を予防するための方策が求められています。こうした状況のなかで「フォールトアボイダンス」と呼ばれる考え方が重要になります。
本記事では、この「フォールトアボイダンス」について詳しく解説します。それが何であるのか、それに期待することは何か、どのように実現するのか、そしてそのメリット・デメリットは何か。システムを開発するエンジニアから経営者、さらにはITに興味を持つ一般の方々まで、具体的でわかりやすい言葉を用いて解説していきます。
「フォールトアボイダンス」を分かりやすく解説
「フォールトアボイダンス」とは、英語で「Fault Avoidance」、直訳すると、「障害の回避」あるいは「故障を避ける」という意味になります。ITの分野ではシステムの設計や運用の段階で、潜在的な問題や障害を予防し、それを未然に防ぐための取り組みや方法論を指す言葉です。
まず、ITシステムが適切に機能するためには、設計段階から障害の発生を回避するよう取り組んでいくことが大切です。しかしながら、注意深く取り組んだとしても全てのシステムが全ての障害を避けることはできません。「フォールトアボイダンス」の考え方は、システムの障害を出来る限り減らすこと、そして防ぎきれずに発生してしまった障害に対しては迅速に対応できるようにすることを目指しています。
なお、「フォールトアボイダンス」と似た概念として「フォールトトレランス」があります。こちらは「障害耐性」と直訳され、障害が発生してもシステム全体が正常に動き続ける仕組を指します。フォールトアボイダンスが障害の発生を未然に防ぐことに重きを置くのに対して、フォールトトレランスは障害が発生しても、最低限システムが機能し続けることを重視します。
一般的には、1つのシステムに対してフォールトアボイダンスとフォールトトレランスは共存し、同時に適用されます。これらは互いに補完的な役割を果たし、システムの安定性と信頼性を高めるために用いられます。
航空機のエンジンを例にとると、フォールトアボイダンスの考え方で、エンジン部品の選定やメンテナンスにおいて、耐久性の高い材料を選び、定期的な保守・点検を実施し、エンジンの故障を可能な限り未然に防ぎます。そこにフォールトトレランスを上乗せし、航空機は複数のエンジンを持つため、もし1つのエンジンが故障したとしても、他のエンジンによって飛行を続けるようにしています。これら二つの視点は共存し、航空機の安全な運行を実現するために重要な役割を果たしています。
「フォールトアボイダンス」が注目されている背景
「フォールトアボイダンス」が近年、ますます注目されている背景には、いくつかの要因があります。
まず、社会のデジタル化が進行する中で、ITシステムの信頼性が組織の生命線とも言えるほど重要になってきています。オンラインサービスやリモートワーク、クラウドサービスなど、現代社会の働き方や生活スタイルは大きくITに依存しています。システムに異常が発生してサービスが停止することは、ビジネスに大きな影響を与えるだけでなく、ユーザーの印象を悪化させブランドイメージの損失にも繋がります。
「フォールトアボイダンス」が不十分・未成熟だった時代は、障害が発生した時点でシステムの運用を停止し、原因を追求するという対応もなかば許されていました。しかし、このアプローチは、障害の影響範囲が広がり、システム全体のダウンタイムが長引く恐れもあります。そのため、ITの重要性が増していくのと並行して、障害が発生した場合でもシステム全体が機能し続ける「フォールトトレランス」と、障害を未然に防ぐ「フォールトアボイダンス」の重要性が認識されてきたのです。
加えて、法令やガイドラインの整備も「フォールトアボイダンス」の注目度を高めています。プライバシー保護やセキュリティ対策を強化するための法律や規制が世界的に整備される中で、ITシステムの障害がデータ漏洩などのリスクを高めることから、事前に障害を防ぐ「フォールトアボイダンス」が重視されています。
「フォールトアボイダンス」が注目されている背景には、社会のIT化や働き方の変化、法令・ガイドラインの整備などが関係しており、これらの要素が複雑に絡み合いながらシステムの安定性や信頼性を求める声を高めています。
「フォールトアボイダンス」が関係する事例
「フォールトアボイダンス」の重要性は、実際の事例を通じて考えると分かりやすいかもしれません。そのアプローチが不十分だった場合と、しっかりと導入された場合の事例をそれぞれ2つずつ紹介してみます。
まず、不十分だった場合の事例として、A社の製造業の例を挙げます。A社では、生産ラインのコントロールを担当する重要なシステムが突然ダウンしました。原因は1つの小さな部品の故障で、この部品の故障が全体の生産ラインを停止させるという事態に至りました。ここで「フォールトアボイダンス」が適切に行われていれば、このような故障を未然に防ぐことができたでしょう。結果的に、A社は生産遅延による損失を被りました。
次に、B社の営業部の例を挙げましょう。営業部では、顧客情報や契約情報を一元管理するCRMシステムを使用していましたが、突然のデータベースの障害により、システムが利用できなくなりました。これにより、営業活動が一時的に停止し、取引の遅延が発生しました。この例もまた、システムのメンテナンスやモニタリングが適切に行われていれば、「フォールトアボイダンス」によって問題を回避できた可能性があります。
一方、フォールトアボイダンスが適切に導入されていた事例として、C社の製造業の例を見てみましょう。C社では、生産ラインのシステムに対して定期的なメンテナンスと、部品の交換スケジュールを定めていました。その結果、予期せぬダウンタイムは発生せず、生産効率を最大限に保つことができました。
最後に、D社のIT部門の事例を挙げます。D社のIT部門では、定期的にシステムのパフォーマンスチェックと、システムの弱点を見つけるためのストレステストを行っていました。これにより、障害発生の前に問題を発見し、対策を講じることができました。
以上の事例を通じて、「フォールトアボイダンス」の重要性がわかると思います。これらの事例は、システムの安定性と信頼性を保つために、「フォールトアボイダンス」がいかに重要であるかを示しています。このアプローチが適切に行われていれば、重大な損害を防ぐことが可能です。一方で、その重要性を見落とした場合、予期せぬ障害によってビジネスに大きな影響を与える恐れがあります。それぞれの組織が、自身のシステムに対して適切な「フォールトアボイダンス」を行うことが求められています。
「フォールトアボイダンス」の実現手法
「フォールトアボイダンス」を具体的に実現するための手段は数多く存在しますが、ここでは主要な4つの手法を紹介します。
まず一つ目は、「品質保証」の確保です。製品やシステムが市場に出る前に十分な品質チェックを行い、可能な限り欠陥を排除することが重要です。テストや検査は、初期の欠陥を特定し、それらを修正するための最も効果的な手段となります。
二つ目は、「保守性」の向上です。これはシステムが故障した際に迅速に復旧できるようにするための重要なアプローチです。システムの構造を単純化し、明瞭にし、それを文書化することで、故障時に素早く問題を特定し、対処することが可能となります。
三つ目は、「予防的メンテナンス」です。定期的にシステムのメンテナンスを行い、早期に問題を発見し修正することで、大規模な障害を未然に防ぐことが可能です。これは、予期せぬダウンタイムを防ぐための重要な手段となります。
そして最後に、「設計の冗長性」を採用することです。システム内の各部品が役割を重複して担うことで、1つが故障しても他の部品がその役割を補完し、全体のシステムが稼働し続けるようにする手法です。冗長性は、特に重要なシステムにおいて、信頼性の向上に役立ちます。
以上の4つの手法を組み合わせることで、「フォールトアボイダンス」のアプローチを具体化できます。それぞれの組織やプロジェクトは、自身の状況や目標に応じて最適な手法を選択し、取り組むことが求められます。
「フォールトアボイダンス」のメリット・目的
「フォールトアボイダンス」は、その導入により様々なメリットがあります。
その最大の目的は、システムやプロセスの信頼性と安全性を向上させることにあります。具体的な利点としては、以下のような要素が挙げられます。
「効果」について考えてみましょう。「フォールトアボイダンス」は、システムの障害を予防するための重要な方策であり、システムのダウンタイムが大幅に減少します。これは結果的に、ユーザーエクスペリエンスの改善や、システム全体のパフォーマンス向上につながります。
次に、「セキュリティ」の観点です。「フォールトアボイダンス」は、潜在的な脅威や脆弱性を予め特定し、修正することでシステムのセキュリティを強化します。機密性、完全性、利用可能性(通常、これら3つをセキュリティの三原則といいます)が保たれることになります。
「コスト」の面でも、早期に問題を対策することで、大きな障害につながる前に問題を察知・修正することが可能となります。これにより、障害から生じる可能性のある高額な修理費やビジネスの機会損失を防ぐことができます。
「経営」の視点からも、システムの信頼性が高まることは非常に重要です。信頼性の高いシステムは、顧客満足度を向上させ、組織のブランドイメージを高めることに貢献します。
最後に、情報システム(情シス)とユーザーの関係についてです。「フォールトアボイダンス」により、システムの信頼性が向上すれば、ユーザーはそのシステムを安心して使用することができ、また、情シス部門はユーザーからのクレームや障害報告の対応に追われることなく、より生産的な業務に注力することができます。
以上のように、「フォールトアボイダンス」は、システムの効果、セキュリティ、コスト、経営面、情シスとユーザーの関係という様々な面で、利点があります。これらのメリットを最大限に発揮させるためには、組織全体での取り組みと持続的な改善が不可欠です。
「フォールトアボイダンス」のデメリット・注意点
「フォールトアボイダンス」にも残念ながらデメリットや注意点が存在します。
まず、「効果」についてですが、「フォールトアボイダンス」は、必然的に時間と労力を要する取組みです。全ての可能性を網羅し、予防策を講じることは、多くの組織にとっては負担となるかもしれません。
次に、「セキュリティ」についてです。「フォールトアボイダンス」は潜在的な脅威や脆弱性を事前に特定し、修正するため、十分な専門知識とスキルを要求します。これらが不足している場合、見当違いの対応をしてしまい、システムのセキュリティはむしろ弱まる恐れすらあります。
さらに、「コスト」の観点です。「フォールトアボイダンス」の取り組みは初期投資が大きいと感じるかもしれません。全ての潜在的な問題を見つけ出し、予防策を講じるためには、人的資源や時間、技術的な投資が必要です。
「経営」の視点。「フォールトアボイダンス」は、その取り組みが組織全体に適切に理解され、実行されるためには、しっかりとしたリーダーシップと組織的な調整が必要となる場合があります。
最後に、情報システム(情シス)とユーザーの視点からも、「フォールトアボイダンス」は、新たなプロセスやツールの導入により、一時的に戸惑ったりトレーニングコストが多く発生したりする可能性があります。
これらのデメリットを解消または軽減するためには、適切なプロジェクト管理とリソース配分を行う必要があります。これにより「効果」や「コスト」の面での問題を緩和することができます。「セキュリティ」の問題に対しては、専門的なスキルや知識を持った人材の確保や育成、あるいは外部の専門家との協力を検討することが有効です。「経営」の視点では、組織全体が取り組みの重要性を理解するための内部コミュニケーションが不可欠です。そして、情シスとユーザーの視点からは、新たなプロセスやツールの導入をスムーズに行うために、適切な研修やサポート体制を整えることが重要です。
「フォールトアボイダンス」は、その取り組みにより様々なメリットありますが、一方で注意が必要な部分も存在します。しかし、そのデメリットも適切な対策や工夫により軽減することが可能です。組織全体が一丸となって取り組むことで、最大限の効果を引き出すことができるでしょう。
「フォールトアボイダンス」のまとめ
「フォールトアボイダンス」と「フォールトトレランス」は、システムの信頼性を確保するための異なるアプローチです。その両方が同時にシステムに適用されることが一般的で、特に重要なシステムや高度な要求を持つシステムでは、これらの両方が共存し、システムの信頼性を向上させています。
「フォールトアボイダンス」は問題が発生する前にそれを防ぐアプローチで、その具体的な手法には多岐にわたります。一方で、「フォールトトレランス」は問題が発生したときにシステムが稼働し続けるようにするアプローチです。航空機のエンジンはその良い例で、エンジンの部品の信頼性を上げることで問題を回避し、一方でエンジンが片方でも飛行を続けられるように設計されています。
「フォールトアボイダンス」が注目される背景には、社会のデジタル化やIT技術の進化、そして働き方の変化などがあります。特に遠隔作業やデジタルサービスの利用が増える中で、システムの信頼性はますます重要となり、そのために「フォールトアボイダンス」は重要なアプローチとなっています。
ただし、その取り組みには様々なメリットとデメリットが存在します。メリットとしては、効果的なリスク管理、高い利便性と安全性、セキュリティの向上、コスト削減、そして経営の安定化などが挙げられます。一方、デメリットとしては、高い初期投資、必要な専門知識とスキル、組織的な調整とリーダーシップなどの課題が存在します。
しかし、これらの課題も適切な対策と工夫により克服可能です。フォールトアボイダンスは、その取り組みを通じてシステムの信頼性を向上させ、社会全体の利便性と安全性を確保する重要な手段となり得ます。組織や個々のプロフェッショナルが、その取り組みの意義を理解し、具体的な実現方法を探求していくことで、より良い社会を築いていくことが期待されます。
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