仮想化とは? 役割・仕組み・機能をわかりやすく解説
この記事では、IT業界で急速に重要性が高まっている「仮想化」について解説します。仮想化とは何か、なぜ今注目されているのか、どのような背景があり、そのメリットやデメリットはなにか等について広く解説していきます。また、具体的な仮想化のアプローチとして、サーバー仮想化、ストレージ仮想化、ネットワーク仮想化、アプリケーション仮想化、デスクトップ仮想化の5種をメインとしています。
仮想化を分かりやすく解説
"仮想化"は、英語では"Virtualization"と表記され、直訳すると「仮想的にすること」を意味します。コンピュータの世界においては、物理的なハードウェア資源(サーバー、ストレージ、ネットワークなど)を、現実には存在しない"仮想"的な資源として見せ、より使いやすくするための手法を指します。
仮想化に取組む最大の目的は、ITリソースを物理的な制約から解放し、効率的な利用を可能にすることにあります。また、仮想化によってハードウェアの(物理的な)制約から解放されれば、システムの可用性は向上し、故障時でも迅速に別のリソースに切り替えサービスを継続させることができます。これにより、ダウンタイムを減らし、稼働率は高まるという大きなメリットが生まれます。
仮想化技術はクラウドコンピューティングの基盤技術でもあります。一つの物理サーバー上に複数の仮想マシンを立ち上げることにより、クラウドサービス事業者は多くの顧客に対して独立した環境を提供することが可能になります。
しかし、多くのメリットがある一方で、仮想化技術を適切に利用するためには、高度な専門知識が必要になる場合があります。具体的に何を実現するのか、その目的に対して、各方式のメリットやデメリットは何か、といったことを把握することが、仮想化を上手く活用していくための鍵となるでしょう。
仮想化が注目されている背景
近年、仮想化技術は大きく注目されてきましたが、その背景には様々な社会的、技術的な変化があります。
まず、技術の進歩と普及です。かつては、ハードウェアは物理的なリソースとしての限界があり、ITシステムが提供するサービス規模は直接的にハードウェアの能力に依存していました。しかし、技術の進歩により、高性能なハードウェアが手頃な価格で手に入るようになり、その結果、一台のハードウェアで複数のシステムを稼働させることが可能になっています。これにより、余っているリソースを安全かつ効率的に利用できる仮想化技術が現実的な選択肢として重要視されるようになったのです。
次に、働き方の変化です。リモートワークやフレックスタイムといった新しい働き方が広まるにつれて、いつでもどこからでも社内リソースにアクセスできる環境が求められるようになりました。このようなニーズに応えるためにも、物理的な場所に縛られず、柔軟に利用できる仮想化技術が注目されています。
また、仮想化技術はクラウドサービスの普及にも一役買っています。一台のサーバーを多くのユーザーで共有するクラウドサービスにおいて、仮想化技術は各ユーザーに独立した環境を提供する役割を果たしています。
最後に、法令やガイドラインの変化です。個人情報の保護やセキュリティ対策が強く求められるようになった現代では、個々の仮想マシンごとにセキュリティ対策を講じることが可能な仮想化技術に期待が集まっています。
以上の背景から、仮想化技術は現代のIT環境において重要な存在となり、その有用性と可能性にたいして大きな期待をされるようになったのです。
仮想化の具体的な実現手法
仮想化のアプローチは多岐にわたりますが、ここではサーバー仮想化、ストレージ仮想化、ネットワーク仮想化、アプリケーション仮想化、デスクトップ仮想化の5つの視点から具体的な実現方法を見ていきましょう。
サーバー仮想化
物理的なサーバーを仮想化し、一台の物理サーバー上で複数の仮想的なサーバーを動作させる技術です。実現方法としては、ハードウェア型(ハイパーバイザー型)とコンテナ型の二種類が存在します。ハードウェア型は、VMwareの「VMware vSphere」やマイクロソフトの「Hyper-V」、さらにはオープンソースの「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」などがあります。一方、コンテナ型の仮想化はオープンソースソフトウェアの「Docker」や「Kubernetes」などがあり、ホストOS(コンテナを実行するOS)上で効率性を高めつつ、複数のアプリケーション環境を分離して動作させることができます。
ストレージ仮想化
ストレージの仮想化は、物理的なストレージの構成や位置を意識せずにストレージを利用できるようにします。IBMの「IBM System Storage SAN Volume Controller」やHitachi Vantaraの「Virtual Storage Platform」、オープンソースソフトウェアの「Ceph」や「GlusterFS」などがあります。これらを利用することで柔軟なストレージ環境を実現できます。
ネットワーク仮想化
ネットワークの仮想化は、物理的なネットワーク機器を抽象化し、ネットワークの設定とあわせて管理をソフトウェア上で行う技術です。NFVやSDNが主流です。SDNでは、オープンソースの「OpenFlow」や「Open vSwitch」が有名で、NFVではシスコシステムズの「Cisco NFV Infrastructure」やノキアの「CloudBand」などがあります。
アプリケーション仮想化
アプリケーション仮想化は、アプリケーション個々を仮想化し、OSやハードウェアから独立させる技術です。アプリケーションの展開やその後の管理が容易になります。アプリケーション仮想化では、マイクロソフトの「App-V」やシトリックスの「XenApp」、そしてオープンソースの「Docker」などがあります。
デスクトップ仮想化
デスクトップ仮想化は、PC利用者のデスクトップ環境全体をサーバー上で仮想化し、ユーザーはその仮想的なPC環境に接続して作業を行う技術です。PCの設定や管理を集中的に行うことが可能となります。製品としては、VMwareの「VMware Horizon」やシトリックスの「Citrix Virtual Apps and Desktops」などが、オープンソースの「Apache Guacamole」などがあります。
以上のように、仮想化技術は多様な実現方法を持ち、それぞれが企業の運用効率向上やコスト削減、セキュリティ強化などに貢献します。この、効果的な導入にあたっては、システムの規模やニーズ、予算などに応じた適切な選択が求められます。また、特定の技術やソリューションに過度に依存せず、技術の進化や市場の動向を見守りながら、適切な更新や改善を行っていくことが重要です。
選択すべき仮想化方式の検討
仮想化アプローチの選択は、組織の目的、要求、リソース、運用モデルなどに大きく依存します。さらに、組織が現在抱えている課題や、将来の計画によってもその選択は異なります。以下に、各仮想化アプローチがどのような状況や課題に適しているかを示します。
サーバー仮想化
仮に、物理サーバーの電力消費とスペース占有率の問題に直面している。それぞれのサーバーが十分に活用されていない(例えば、CPUや、メモリの使用率が低い)のにも関わらず、新たなアプリケーションを導入するたびに新しいサーバーを導入している。このような場合、サーバー仮想化を検討すべきです。複数の仮想マシンを単一の物理サーバー上で実行することで、(物理)サーバーのソースの使用効率を大幅に向上させることができます。加えて、システム障害からの復旧時間を短縮したり、新しいシステムの導入を容易にしたりもできます。
ストレージ仮想化
補完すべき電子データが急速に増加している企業では、データ管理の複雑性とコストが増大する問題に直面しているかもしれません。例えば、大量の顧客データやトランザクションデータを保持し続ける必要がある金融業界やeコマース業界などでは、この問題が深刻です。ストレージ仮想化は、これらの課題の解決に有効です。データを一元的に管理し、ストレージ容量を容易に拡張できるようにします。
ネットワーク仮想化
企業がクラウド化を進める中で、物理的なネットワークインフラに制約を感じている場合や、ネットワーク設定の変更が頻繁に必要で、そのたびに大きな労力を必要としている場合には、ネットワーク仮想化が解決策となります。ネットワーク仮想化は、物理的な制約から解放し、一元的な管理と、効率的で正確なネットワークの設定や変更を行うことができます。
デスクトップ仮想化
企業が新たにリモートワークを導入しようと考えている場合、または、既にリモートワークの導入が進んでいるが、セキュリティ面や管理面に課題を感じている場合は、デスクトップ仮想化が解決策になるかもしれません。また、従業員が自身のデバイスを利用するBYODポリシーを取っている企業では、個々のデバイスへのセキュリティパッチの適用や、デバイスごとのソフトウェア環境の一貫性維持などが課題となることがあります。デスクトップ仮想化を導入することで、これらを一元的に管理し、セキュリティを強化しつつ、より利便性の高い業務環境を実現できるかもしれません。
アプリケーション仮想化
多種多様なアプリケーションを利用している場合、特にそれらがマルチOS・マルチデバイスで使用される場合には、アプリケーション仮想化が有望です。例えば、営業部門がWindows環境でCRMツールを、デザイン部門がMac環境でグラフィックスツールを、製造部門がLinux環境で専門的なソフトウェアを使用するような状況において。それぞれのアプリケーションを各部門個別にインストールし、更新するのは大変な作業です。アプリケーション仮想化は、これらのソフトウェアをセンターで一括管理し、各ユーザーのデバイスに必要に応じて配信、管理の手間を大幅に減らします。
以上は、個別の課題解決の一例です。実際には、複数の方式を組み合わせることでさらなる効果を発揮します。例えば、サーバー仮想化とストレージ仮想化を組み合わせることで、全体のITインフラストラクチャの管理と運用が更に効率化します。組織が抱える課題や将来のビジョンをしっかりと見つめ直し、自社のニーズにマッチする仮想化アプローチを選択することが重要です。
仮想化のメリット・デメリット
仮想化技術は、ITインフラのコスト削減や効率化、ビジネスの俊敏性向上など、多くのメリットを提供する一方で、導入や運用には一定の注意が必要となります。それぞれのアプローチがどのような影響を与えるか、そのメリットとデメリットについて触れます。
利便性
仮想化は、サーバー、ストレージ、ネットワーク、アプリケーション、デスクトップといった様々なレベルでの作業効率化を実現します。サーバー仮想化により、物理サーバーの増設が不要になり、新しいサーバーの導入や既存サーバーのスケーリングが容易になります。ストレージ仮想化では、物理的なデータストレージから独立してデータを管理できるため、データへアクセスしやすくなり可用性も向上します。ネットワーク仮想化では、ネットワーク資源の統一的な管理と自動化が行われ、情報システム部門のメンテナンスの手間が軽減します。アプリケーションとデスクトップの仮想化では、ユーザーがどこからでも自分のデスクトップ環境や必要なアプリケーションにアクセスできるようにすることで、生産性が向上します。
ただし、デメリットも考慮に入れる必要があります。仮想化の管理は複雑であり、設定やトラブルシューティングは専門知識を必要とします。また、物理的なリソースを超えて仮想的なリソースを作りすぎると「オーバーサブスクリプション」状態となり、パフォーマンスが低下する可能性があります。
セキュリティ
仮想化により全体のポリシーを一元管理できる利点があります。仮想マシンごとに独立したセキュリティポリシーも設定できるため、様々なレベル感でセキュリティを向上させることが可能です。ネットワーク仮想化でも、仮想ネットワークごとに異なるセキュリティ設定を適用でき、安全性とともに柔軟性も向上します。
しかしながら、仮想化の導入は新たなセキュリティリスクを生む可能性もあります。例えば、ハイパーバイザが攻撃を受けると、その下の全ての仮想マシンが影響を受ける可能性があります。また、仮想マシン間でのセキュリティ隔離が不十分な場合、一部の仮想マシンが侵害されると、他の仮想マシンも影響を受ける可能性があります。
コスト
仮想化により、ハードウェア調達コスト、電力コストの低減が期待できます。物理的なリソース使用率の向上により、ハードウェアの投資効率が良くなることも祟ります。仮想化によりシステム管理が一元化されるため、管理コストも削減できます。
しかしながら、仮想化ソフトウェアや管理ツールのライセンス料、仮想化に対応するための新たなハードウェア投資、スキルアップのための社員の研修費用など、導入初期コスト増は無視できません。そもそも、全ての場合において仮想化するという戦略が必ずしも最善とは限らず、システムの要件や運用状況によっては物理的な環境を維持した方がコスト効果的な場合もあります。
経営面
IT資源の効率的な利用により、企業全体の生産性向上やビジネスの柔軟性を高める役割を果たします。物理的なリソースに依存しない環境は、新しいビジネスニーズへの迅速な対応を可能にします。また、サーバールームのスペースを最小限に抑えることで、オフィススペースに転用して有効活用したり、逆に解約しリモートワークを推進したりと、経営戦略の多様化を支えます。
しかしながら、前述の通り仮想化環境の導入と運用は専門知識を必要とし、人材育成や教育訓練のコストが発生します。また、一部の業務アプリケーションが仮想化環境に対応していない場合もあり、その対応には時間と費用が必要です。
ユーザー・情報システム部門
ユーザーにとっては、仮想デスクトップやアプリケーション仮想化の導入により、場所や時間を問わず作業が可能になるため、働き方の自由度が高まります。また、情報システム部門にとっては、一元化された管理により運用の効率化がされ、更にサーバーやストレージの追加、ネットワークの変更などを迅速に行うことができるようになります。
デメリットとしては、仮想化環境の管理と運用には専門的な知識とスキルが必要です。もしも、仮想環境の設定や運用でミスをしてしまうと、システム全体の動作やパフォーマンスに影響を及ぼすことになります。ユーザーにとっては、仮想デスクトップのパフォーマンスが物理デスクトップに劣る場合や、ネットワーク接続が不安定な環境では作業効率が低下します。
以上、仮想化技術のメリットとデメリットについて、特に5つの主要な仮想化のアプローチを中心に見てきました。仮想化技術は、ITインフラの効率化やコスト削減、ビジネスの迅速な展開など、企業にとって大きなメリットをもたらします。しかし、それに伴うデメリットや課題も無視することはできません。仮想化技術を最大限に活用するためには、各技術の特性を理解し、ビジネス目標やIT戦略に合わせた適切な選択と運用が重要です。自社のIT環境や業務ニーズに応じて、最適な仮想化のアプローチを選択し、そのメリットを最大限に引き出すとともに、デメリットを最小限に抑えるための戦略を立てるべきです。
仮想化以外の選択肢
仮想化の目的が、物理的なリソースの管理負荷を軽減したり、インフラの柔軟性を高めたりする場合、自社での仮想化運用以外にも、ホスティングサービス、マネージドサービス、クラウドサービスという選択肢が考えられます。
ホスティングサービス
ホスティングサービスは、第三者のプロバイダが企業のウェブサイトやアプリケーションのホストを担当するサービスです。企業は自社のインフラを維持・管理する代わりに、プロバイダのサーバーやデータセンターを利用します。
自社での設備投資や運用負荷が軽減され、ホスティングプロバイダの専門的な知識とスキルを利用できます。必要に応じて容易にリソースを増減することが可能ですが、その一方、全てのリソースと設定に対するコントロールが限定的で、サービス品質はサービス提供事業者に大きく依存してしまいます。
マネージドサービス
ITの運用管理を第三者のプロバイダに委託するサービスです。プロバイダは日常的な運用タスク、問題解決、アップデートなどを担当し、企業はビジネスに集中することができます。
ITの運用負荷が軽減され、専門的な知識を必要としない。また、必要なサービスのみを選択できるため、必要な投資を最小限に抑えられますが、サービス費用が高額になる可能性があり、サービスの運用・管理品質がサービス提供事業者に大きく依存します。
クラウドサービス
クラウドサービスは、スケーラビリティとコストパフォーマンスの高さ、そして何処からでもアクセス可能である利便性、最新のテクノロジーを迅速に取り入れられるなど、多くの利点があります。また、初期投資を抑えることも可能です。
しかしながら、高品質なネットワーク環境が求められ、セキュリティの懸念や、カスタマイズの制約などの課題も存在します。
仮想化のまとめ
仮想化技術は、現代のIT環境において不可欠な要素となり、その多様なアプローチが、業務運用の効率化、コスト削減、セキュリティ強化など、さまざまな観点でメリットを提供しています。各種の仮想化アプローチが適用される場面も豊富で、企業の経営戦略や働き方改革をも支える要素として位置づけられています。
それぞれのアプローチは、サーバー仮想化からストレージ仮想化、ネットワーク仮想化、デスクトップ仮想化、そしてアプリケーション仮想化と、企業や組織の具体的なニーズに応じて最適な選択が可能です。その選択により、利便性やセキュリティ、コストといった面で大きなメリットを享受することができます。
しかし、仮想化の導入と運用には、専門的な知識や技術が必要となるため、その教育・訓練や人材育成に関するコストも考慮する必要があります。また、システム全体のパフォーマンスや安定性を保つためには、適切な設定や運用が求められます。
以上の点を総合的に考慮し、それぞれの組織や企業が自身のニーズに最適な仮想化アプローチを選択し、効果的に運用することが求められます。仮想化技術は、その発展とともに、ますます進化し続けるIT環境において重要な役割を果たしていくことでしょう。
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