AESとは? わかりやすく10分で解説
AES(Advanced Encryption Standard)とは?
はじめに、AES(Advanced Encryption Standard)という、情報通信技術になくてはならない暗号化アルゴリズムについて解説します。
まずは、AESという暗号化アルゴリズムがいったい何であるのか説明します。それからAESがどのように進化してきたか、なぜ当初から今も広く利用されているのかについて触れていき、最後に、予備知識として暗号化技術全般についての知識を取り上げます。
AESとは何か?
AES(Advanced Encryption Standard)は、「先進的暗号化標準」を意味します。これは無線LANやネットワーク通信のデータ暗号化におけるアルゴリズムで、米国国立標準技術研究所(NIST)が公募で選出した技術です。
AESは共通鍵暗号化の一貫で、送信者と受信者が同じ秘密鍵を用いて暗号化および複合化を行います。AESには128bit、192bit、256bitの3種類の鍵長があり、これらの鍵を使用することで、より強固な暗号化が可能になります。
複数の変換を行い、最終的に欲しい結果を算出するアルゴリズムの特種から、情報の漏洩を防ぎ、セキュリティの高い通信を可能にします。
AESの歴史と進化
2001年にNISTにより承認されたAESは、情報技術界に大きな影響を与えてきました。その暗号化強度と堅牢さから、連邦政府はじめ多くの組織がAESを利用します。また、その明確なアルゴリズムと標準化により、誰もが利用できるようになりました。
オンライン通信の増大とともに、AESの重要性は急速に増しています。高度な暗号化能力によって、個人情報やビジネスの秘密データなどを保護します。また、鍵長が変更可能なため、一定のセキュリティレベルを維持しつつ、必要に応じて通信速度を向上させることも可能です。
これらの特徴により、AESは安全性と効率性を兼ね備えた、現代の通信における必須の暗号化スタンダードとなっています。
AESの利用目的とは?
AESが最も一般的に使用されているのは、無線LANの通信で、特にWPA2ではAESが採用されています。多くのビジネスでは、モバイルデバイスから無線LANを通じて社内ネットワークに接続する際、これらの通信を保護するためにAESが用いられます。
また、ウェブサイトへの安全な接続を確保するためのSSL/TLS暗号化にもAESが使用されます。ウェブブラウザとウェブサーバ間の通信を暗号化することで、データの漏えいや改ざんを防ぐことが可能です。
さらに、AESはファイルやディスクの暗号化にも使用できます。この場合、パーソナルデータや機密情報を含むファイルを第三者から保護するために、AESによって暗号化されることが多いです。
暗号化技術全般について
AESの話に入る前に、まずは暗号化という概念について理解することが重要です。暗号化とは、データを一定のルールで変換し、その内容が第三者に読まれない形にするプロセスのことを指します。AESはその中でも「共通鍵暗号」という一種であり、暗号化と複合化に同じキーを用いる方式を採用しています。
しかし、情報を暗号化するだけでなく、それを解読(複合化)する能力も同様に重要です。そこでAESは高度な複合化アルゴリズムを導入しており、送信者と受信者だけが正確な鍵を持つことで情報を復号できる設計になっています。
そこから更に深堀りすると、暗号化技術は現代の情報社会における貴重な機密情報を保護する重要な役割を果たしています。特にAESはその一部であり、あらゆるオンライン通信を保護する主要な手段となっています。
AESの特徴
AESは「Advanced Encryption Standard」の略で、日本語に訳すと「先進的暗号化標準」となり、現在世界中のさまざまな分野で使用されています。以下では、その特徴について詳しく解説します。
高いセキュリティ性能とその理由
AESの最も大きな特徴は、その高いセキュリティ性能です。これは、送信者と受信者が同じ暗号鍵を用いて暗号化と復号を行う共通鍵暗号の1つであり、その暗号の強度が非常に高いためです。
AESの強度は、4種類の変換(SubBytes、ShiftRows、MixColumns、AddRoundKey)を行い、これらの処理を複数回繰り返すことで高まるものです。この長い変換プロセスを経ることで、攻撃者がデータを解読することは非常に難しくなっています。
また、暗号化と復号のプロセスは時間がかかると考えられがちですが、AESは高速で処理を行うことが可能です。そのため、リアルタイム通信や大量のデータを扱う場面でも、よりセキュリティを実現できます。
3つの鍵長(128、192、256ビット)の解説
AESは3つの鍵長(128、192、256ビット)を持っています。鍵長とは、暗号化キーの長さのことで、長ければ長いほど解読の難易度は上がります。つまり、鍵長が長いほどセキュリティ性能は高くなります。
鍵長が128bitの場合、計算可能な鍵の数は2^128個となります。これは非常に大きな数値であり、コンピュータでこの全てのパターンを試みるためには膨大な時間とリソースが必要となるため、安全性が確保されるとされています。
それ以上に、192bitや256bitの鍵長を持つAESはさらに強固なセキュリティを提供します。これらの長さの鍵を破るためには、現在のコンピュータ技術では実質的に不可能とされています。
AESの変換プロセスとフロー
AESの暗号化プロセスは、大まかに4つのステップ(SubBytes、ShiftRows、MixColumns、AddRoundKey)から成り立っています。これら一連のステップを一つのサイクルとし、これを複数回繰り返すことで、暗号の強度を高めています。
SubBytesでは、暗号化の対象となるデータを固定テーブルに基づいて置換します。次にShiftRowsでは行ごとにデータを移動し、MixColumnsでは列ごとのデータを混合します。最後にAddRoundKeyでは、予め定められたキーとデータをXOR演算を用いて混合します。
これらのステップはシンプルで理解しやすい一方、複数回繰り返すことで出力結果は入力とは大きく異なるものとなり、元の情報を想像することが難しくなる一因となります。
ブロック暗号とストリーム暗号の違い
AESはブロック暗号の一種であり、一定量のデータをブロックごとに暗号化します。このブロック暗号は対象データを逐次的に処理するストリーム暗号とは対照的です。
ストリーム暗号はデータを1ビットか1バイトずつ処理し、それぞれのビット・バイトを暗号化キーの長さに関わらず、固定長の出力として暗号化します。対して、ブロック暗号は固定した長さのブロックデータを一まとめにして処理するため、より難解な暗号化を行うことが出来ます。
そのため、AESのようなブロック暗号は一般的にストリーム暗号よりもセキュリティが強固であり、大量のデータを一度に暗号化・復号することが可能です。
AESの暗号化・復号プロセス
AESの暗号化・復号のプロセスは非常にユニークで、その詳細な手順が、その強固なセキュリティ強度を確保する重要な要素となっています。プロセスの全体像を把握することで、AESの堅牢さと効率性が理解できるでしょう。
データのブロック分割と置き換え
まず、元のデータは128ビットのブロックに分割されます。各ブロックは更に、16個の8ビットフィールドに分けられ、さらに一連の複雑な操作が行われます。この初期のフェーズではSubBytes(置き換え)操作が行われます。この操作は、各フィールドの値をSボックスと呼ばれるルックアップテーブルを用いて新しい値に置き換えるものです。これにより、置き換え前とは異なる新しいデータブロックが生成されます。
データの並べ替えと混合
次に、置き換えられたデータブロックは再編成されます。ここではShiftRows(シフト)操作とMixColumns(列混合)操作が行われます。ShiftRows操作では、フィールドがその行に沿った一定の数だけシフトされます。これにより、データブロックの元のパターンが大きく変化します。次に、MixColumns操作では、各列のデータが特定の方程式を用いて組み合わせられます。これにより、異なるフィールド間の相互依存関係が形成され、解読を困難にします。
ラウンド鍵の追加
並べ替えと混合の後、アルゴリズムはAddRoundKey(ラウンド鍵の追加)操作を行います。これにより暗号化鍵がデータブロックに適用され、さらなる複雑さが加えられます。ラウンド鍵の追加では、各ブロックに対して鍵がビット単位でXORされます。これにより、完全に新しいブロックが形成され、元のデータとは異なる独自のデータセットが生成されます。
復号のプロセスとAESの特性
復号は暗号化プロセスの逆の手順で行われ、最終的に元のデータが取り出されます。復号プロセスでは各暗号化ステップが反転され、元のデータに戻されます。AESの特性の一つに、暗号化と復号のプロセスがほぼ同じであることがあります。これにより実装が簡単になり、鍵を安全に管理すれば情報の安全性が確保されます。
以上のとおり、AESの暗号化・復号のプロセスは、複雑な操作の連なりで構成され、それぞれが重要な役割を果たしています。これにより、AESは他の多くの暗号アルゴリズムと比較して優れたセキュリティと効率性を維持しています。
AESと他の暗号アルゴリズムとの比較
本節では、現代の主要な暗号化アルゴリズムであるDES、3DES、RC4とAESを比較し、AESがどのようにその他のアルゴリズムよりも優れているかを説明します。
DESとAESの違い
DES(Data Encryption Standard)は、その鍵長が56ビットである一方、AESは最大256ビットの鍵長を持つことが可能です。この鍵長の違いは、より多くの組み合わせを使って暗号化により強度を与えることを可能にします。
また、DESはブロック暗号と呼ばれ、一定量のリーフブロック単位でデータを暗号化します。対して、AESは複雑さを増すために4つの異なる変換を使用します。これにより、鍵長と結びついて暗号的な強力さが飛躍的に向上します。
このように、DESに比べてAESの鍵長が長く、より高度な暗号化方法を採用しているため、AESの方が安全性が高いと言われています。
3DESとAESの比較
3DESは、DESの改良版として開発され、3つのDES暗号を組み合わせて安全性を向上させた暗号化方法です。しかし、それでも鍵長は最大168ビットまでで、それよりも進んだAESの最大256ビットと比較すると短いです。
加えて、3DESのスループット(システムが単位時間あたりに処理できるデータ量)はAESよりも低く、大量のデータを速く暗号化する需要が増している現代では、AESの方がより望ましいとされています。
つまり、3DESと対比してAESは更に鍵長が長く、高いスループット性能を持つため、より効率的で安全な暗号化が可能となります。
RC4とAESの特性比較
RC4は、鍵長を40から2,048ビットの間で自由に設定できるストリーム暗号です。一方、AESは128ビット、192ビット、256ビットの3つの固定された鍵長を持っています。
しかし、RC4の鍵スケジュールが不適切であるため、短い鍵長のRC4は攻撃に対して脆弱であるとされています。これに対して、AESは「固定長」であるために鍵スケジュールが不変で、一定のセキュリティレベルを保証します。
従って、AESはRC4より動的な鍵スケジュールとなることを避けることで、暗号化の安全性を保つことができます。
AESがより安全な理由
AESの最大の利点はその高いセキュリティ強度です。
DESや3DES、RC4と比較してAESは長い鍵長を持ち、4つの独自の暗号化ステップを使用します。これらの特性により、AESは高度な暗号解析攻撃に対して強固な暗号化を実現します。
最終的に、今日の急速に発展するデジタル世界では、超強力なセキュリティが必要とされます。そのため、DESや3DES、RC4よりも安全とされるAESが望まれます。
AESの具体的な利用例と環境
AESは、その高いセキュリティ性能と負荷のバランスから、さまざまな環境での暗号化に利用されています。以下に、AESの具体的な利用例をいくつか紹介します。
データ通信におけるAESの使用
AESは、通信データの暗号化という、情報セキュリティ上重要な役割を果たします。データが適切に暗号化されていることで、通信が途中で傍受されても、その内容を第三者が解読することは困難となります。そしてAESは、この暗号化アルゴリズムとして非常に頻繁に使用されています。
例えば、SSL/TLSといったセキュリティの通信手段は、データの機密性と完全性を保つために、AESなどの暗号化アルゴリズムを使用します。これにより、エンドポイント間での安全なデータ転送が可能となります。
このように、HTTPSなどのセキュアな接続やVPN接続など、機密性が求められるデータ通信においては、AESの使用は一般的であり、その重要性が増しています。
無線LANとの関係性
AESは、無線LAN(Wi-Fi)のセキュリティを高めるための重要な役割を果たしています。特に、WPA2やWPA3といったWi-Fiのセキュリティプロトコルでは、AESが推奨される暗号化アルゴリズムとなっています。
それは、Wi-Fiの通信は無線で行われるため、物理的にネットワークにアクセスできる範囲内であれば誰でも傍受できてしまいます。そのため、通信データの暗号化は必須となります。そして、AESはその強固な暗号化能力により、無線LANにおける通信の安全性を保証します。
WPA3では更に進化し、AESをベースとした128ビットの並列方式を使用しています。これにより、さらなるセキュリティ強化がなされています。
ファイル暗号化とAES
物理的なファイルやデータを安全に保存するためにも、AESは頻繁に使用される暗号化アルゴリズムです。
PCやスマートデバイス上のファイルや、クラウドストレージに保存されたデータを暗号化する方法として、AESは広く使われています。これにより、万が一デバイスが盗まれた場合や、クラウドストレージが第三者に漏洩した場合でも、データの内容は保護されます。
例えば、AESを採用しているフリーソフトや商用製品は多く存在し、ファイルやデータベース等を簡単に暗号化できます。このようなソフトウェアを使用することで、一般のユーザーでも気軽にデータ暗号化の恩恵を受けることができます。
エンタープライズでのストレージ暗号化
大規模なデータセンターやクラウド環境でも、AESは重要な安全対策として活用されています。
業務用データの保存やバックアップなど、大量のデータを管理するエンタープライズ環境では、ストレージ全体をAESで暗号化する事例が増えています。これにより、物理的な盗難や不正アクセスから、重要な情報を保護します。
これらの企業環境における暗号化対策には、専用のハードウェアエンクリプタが使用されることもあります。ハードウェア暗号化は、ソフトウェア暗号化と比べて処理速度が速いため、大規模なデータを扱うエンタープライズでは重宝されます。
AESの利用を安全で効率的に行う方法
AESは非常に強固な暗号化アルゴリズムである一方、その利用が正しく行われなければ、そのセキュリティメリットが大きく損なわれます。AESを安全かつ効率的に利用するための方法について、以下に詳しく解説します。
専用ソフトウェアの活用
まずAESの利用にあたり、専用のソフトウェアを活用することが重要です。これらのソフトウェアは、AESによる暗号化・復号の圧倒的に複雑な計算を自動化し、ユーザーにとって簡単に実行できる形にします。これによって、AESの持つ高いセキュリティ強度を手軽に活用することができます。
専用ソフトウェアは有料版と無料版がありますが、無料版でも基本的な暗号化・復号機能が利用できますので、まずはそれらを試してみるのが良いでしょう。ただし、状況によっては有料版へのアップグレードが必要になることもありますので注意が必要です。
また、企業環境では、強固な暗号化が必要となるHDDやストレージの暗号化ソフトが導入されていることが多く、これらも前述の専用ソフトウェアを活用しています。
鍵管理の重要性とベストプラクティス
AESの利用にあたり、鍵管理は非常に重要です。なぜなら、AESは共通鍵暗号方式であり、送信者と受信者が同じ暗号鍵を用いる必要があるからです。意図しない第三者に鍵が漏洩したり、鍵を紛失したりした場合、その暗号化データは元に戻せなくなる可能性があります。
AESの鍵管理においては、鍵を安全な場所に保存し、そのアクセスを厳密に制御することが不可欠です。また、鍵を定期的に変更することも重要なベストプラクティスとなります。
さらに、鍵管理を自動化するためのツールも存在します。これらのツールを利用することで、鍵の生成、配布、保管、回収などのプロセスを自動化し、AESの利用をより安全かつ効率的に行うことができます。
常時暗号化の戦略
情報セキュリティを確保するためには、AESを用いた「常時暗号化」が有効な戦略となります。常時暗号化は、データが保存されている間、または通信中において、常にそのデータを暗号化状態に保つというものです。
これにより、万が一データが盗難された場合でも、暗号化されているために第三者にその内容が解読されることはありません。常時暗号化を実現するためには、アプリケーション、データベース、ストレージ、通信環境など、情報が経由する全てのレイヤーでの暗号化が必要になります。
このようにAESを活用した常時暗号化戦略は、企業における情報セキュリティを大きく強化します。また、この戦略を実現するためのツールやサービスも多数存在します。
最後に:情報セキュリティの普遍性
AESはその高いセキュリティ性から、多くの場面での暗号化に利用されています。そのため、AESの理解とその適切な利用が求められます。また、AESを活用するだけでなく、それと連動した鍵管理や常時暗号化の戦略なども併せて実施することで、より高度な情報セキュリティを実現することができます。
AESは、情報セキュリティを保護する上で重要なツールです。その利用方法を理解し、適切に活用して、情報セキュリティの強化に役立てましょう。
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