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APT対策とは? 10分でわかりやすく解説

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近年、サイバー攻撃の手口が高度化・巧妙化しており、その中でもAPT(Advanced Persistent Threat)と呼ばれる攻撃が企業や組織にとって大きな脅威となっています。この記事では、APTの定義や攻撃の特徴、そして効果的な対策方法について、わかりやすく解説します。

APTとは何か?攻撃の特徴を理解しよう

APTの定義と攻撃の目的

APTとは、特定の組織や個人を狙った、高度で持続的なサイバー攻撃のことを指します。攻撃者は、長期間にわたって標的とする組織のネットワークに潜伏し、機密情報の窃取や システムの破壊などを行います。APT攻撃の特徴は以下の通りです。

  • 特定の組織や個人を狙った標的型攻撃
  • 長期間にわたる持続的な攻撃
  • 高度な技術を用いた巧妙な手口
  • 情報窃取やシステム破壊を目的とする

APT攻撃の主な手口と攻撃の流れ

APT攻撃では、様々な手口が用いられますが、主な攻撃の流れは以下の通りです。

  1. 標的の調査と情報収集
  2. 侵入経路の確保(標的型メールやゼロデイ脆弱性の悪用など)
  3. ネットワークへの潜伏と侵入範囲の拡大
  4. 目的の達成(情報窃取やシステム破壊など)
  5. 痕跡の隠蔽と撤退

攻撃者は、標的とする組織や個人の情報を入念に収集し、侵入経路を確保します。その後、ネットワークに潜伏しながら、徐々に侵入範囲を拡大していきます。目的を達成した後は、痕跡を巧妙に隠蔽して撤退するため、攻撃に気づくのが難しいのが特徴です。

標的型メール攻撃とは?

APT攻撃で頻繁に用いられる手口の一つが、標的型メール攻撃です。これは、標的とする組織や個人に向けて、巧妙に細工されたメールを送りつける攻撃手法です。メールには、以下のような特徴があります。

  • 標的の業務に関連する内容を装った件名や本文
  • 信頼できる差出人を装ったメールアドレス
  • マルウェアに感染したファイルや悪意のあるリンクの添付

標的型メールを開いたり、添付ファイルを開いたりすることで、気づかないうちにマルウェアに感染し、攻撃者にネットワークへの侵入口を与えてしまうことになります。

ゼロデイ脆弱性を悪用した攻撃手法

APT攻撃では、ソフトウェアやシステムに存在する未知の脆弱性であるゼロデイ脆弱性を悪用することがあります。ゼロデイ脆弱性は、開発者も把握していない脆弱性であるため、攻撃者がこれを悪用することで、容易にネットワークに侵入できてしまいます。

ゼロデイ脆弱性を悪用した攻撃は、従来のセキュリティ対策では防ぐことが難しいため、常に最新のセキュリティパッチを適用するとともに、ネットワークの監視を強化することが重要です。

APT攻撃は、企業や組織にとって大きな脅威となっています。攻撃の手口や特徴を理解し、適切な対策を講じることが、情報資産を守るために不可欠です。セキュリティ対策の強化とともに、従業員への教育や啓発活動を通して、サイバー攻撃に対する意識を高めていくことが求められます。

APT対策の基本戦略と具体的な対策方法

APT攻撃から組織を守るためには、包括的なセキュリティ対策が必要です。ここでは、APT対策の基本戦略と具体的な対策方法について解説します。

多層防御とは?

APT対策の基本戦略の一つが、多層防御(Defense in Depth)の考え方です。これは、単一の防御策ではなく、複数のセキュリティ対策を組み合わせることで、攻撃者の侵入を阻止するというアプローチです。具体的には、以下のような対策が含まれます。

  • ファイアウォールやIPS/IDSによるネットワーク防御
  • アンチウイルスソフトやEDRによるエンドポイント防御
  • 暗号化やアクセス制御によるデータ保護
  • 従業員への教育や啓発活動によるヒューマンエラー対策

これらの対策を組み合わせることで、攻撃者が一つの防御策を突破しても、他の防御策によって侵入を阻止することができます。

ネットワークセグメンテーションによるリスク最小化

ネットワークセグメンテーションは、ネットワークを論理的に分割し、各セグメント間の通信を制御する手法です。これにより、攻撃者がネットワークに侵入しても、侵入範囲を限定することができます。重要なシステムや機密データは、独立したセグメントに配置し、アクセス制御を厳格に設定することが推奨されます。

また、ゼロトラストアーキテクチャの導入も検討に値します。これは、ネットワーク内外を問わず、すべての通信を検証し、信頼できるユーザーやデバイスのみにアクセスを許可する考え方です。

エンドポイントセキュリティ対策の重要性

APT攻撃では、エンドポイント(PC、スマートフォンなど)が侵入口となることが多いため、エンドポイントセキュリティ対策が重要です。具体的には、以下のような対策が推奨されます。

  • 最新のアンチウイルスソフトやEDR(Endpoint Detection and Response)の導入
  • OSやソフトウェアの脆弱性を修正するセキュリティパッチの適用
  • 不要なサービスやアプリケーションの無効化
  • 従業員への教育や啓発活動によるセキュリティ意識の向上

また、エンドポイントの監視を強化し、異常な挙動を検知した場合は、速やかに対応することが重要です。

インシデント対応計画の策定とログ管理

APT攻撃を完全に防ぐことは難しいため、攻撃を受けた際の対応計画を事前に策定しておくことが重要です。インシデント対応計画には、以下のような内容を含めることが推奨されます。

  • インシデント発生時の連絡体制と役割分担
  • システムの停止や隔離などの初動対応手順
  • 証拠保全やフォレンジック調査の方法
  • 関係機関への報告や情報共有の手順

また、ログ管理も重要な対策の一つです。システムやネットワークのログを一元的に管理し、異常な挙動を検知するためのルールを設定することで、攻撃の早期発見につなげることができます。

APT対策は、組織全体で取り組むべき課題です。経営層のリーダーシップのもと、セキュリティポリシーの策定や予算の確保、人材の育成などを進めていくことが求められます。また、セキュリティ対策は一度で完了するものではなく、継続的な改善が必要です。新たな脅威の出現に合わせて、定期的にセキュリティ対策の見直しを行うことが重要です。

APT攻撃の早期発見と被害の最小化

APT攻撃による被害を最小限に抑えるためには、攻撃の早期発見が鍵となります。ここでは、APT攻撃の兆候を捉え、迅速に対応するための方法について解説します。

不審なアクティビティを検知する方法

APT攻撃を早期に発見するためには、ネットワークやエンドポイントの不審なアクティビティを常に監視することが重要です。以下のような兆候に注意が必要です。

  • 通常とは異なる時間帯や場所からのアクセス
  • 大量のデータ転送やダウンロード
  • 許可されていないアプリケーションのインストール
  • システムやネットワークの設定変更

これらの兆候を検知するためには、ログの定期的なチェックや、セキュリティ監視ツールの導入が効果的です。

SIEM・UEBAを活用した異常検知

SIEM(Security Information and Event Management)やUEBA(User and Entity Behavior Analytics)は、ログデータを分析し、異常な挙動を自動的に検知するためのツールです。複数のシステムやアプリケーションのログを一元管理し、相関分析することで、単一のログでは見えにくい脅威を捉えることができます。

また、UEBAは、機械学習を用いて、ユーザーやエンティティの行動パターンを分析し、通常とは異なる挙動を検知します。これにより、内部脅威や不正アクセスを早期に発見することが可能です。

脅威インテリジェンスの活用とIOCの収集

脅威インテリジェンスは、サイバー攻撃に関する情報を収集・分析し、組織のセキュリティ対策に活用するためのアプローチです。APT攻撃の動向や、攻撃グループの手口などの情報を入手することで、自組織への攻撃リスクを評価し、適切な対策を講じることができます。

また、IOC(Indicators of Compromise)は、攻撃の痕跡を示す情報であり、マルウェアのハッシュ値やIPアドレス、ドメイン名などが含まれます。IOCを収集し、セキュリティ監視に活用することで、自組織に対する攻撃の有無をチェックすることができます。

インシデントレスポンスの重要性と体制構築

APT攻撃を検知した際には、迅速かつ適切なインシデントレスポンスが求められます。攻撃の影響範囲を特定し、被害を最小限に抑えるとともに、再発防止策を講じる必要があります。そのためには、以下のようなインシデントレスポンス体制の構築が重要です。

  • インシデントレスポンスチームの編成と役割分担
  • インシデント発生時の連絡体制と意思決定プロセス
  • システムの停止や隔離などの初動対応手順の整備
  • 証拠保全やフォレンジック調査の方法の確立

また、定期的なインシデントレスポンス訓練を実施し、手順の検証や改善を行うことが推奨されます。

APT攻撃の早期発見と被害の最小化は、組織のセキュリティ対策において重要な課題です。不審なアクティビティの監視、SIEM・UEBAの活用、脅威インテリジェンスの収集など、多角的なアプローチを組み合わせることで、APT攻撃のリスクを低減することができます。また、インシデントレスポンス体制の構築と継続的な改善により、攻撃発生時の迅速な対応が可能となります。

従業員教育とセキュリティ意識向上の取り組み

APT攻撃から組織を守るためには、技術的な対策だけでなく、従業員のセキュリティ意識向上が不可欠です。サイバー攻撃の多くは、従業員のヒューマンエラーを突いて行われるため、従業員一人ひとりがセキュリティの重要性を理解し、適切な行動をとることが求められます。ここでは、従業員教育とセキュリティ意識向上のための取り組みについて解説します。

フィッシング対策トレーニングの実施

フィッシング攻撃は、APT攻撃の主要な侵入経路の一つであり、従業員を狙ったメールを通じて行われることが多くあります。フィッシング対策トレーニングでは、以下のような内容を取り上げることが推奨されます。

  • フィッシングメールの特徴と見分け方
  • 不審なメールへの対処方法(開封しない、添付ファイルを開かない、URLをクリックしないなど)
  • 正規のメールと偽装メールの判別方法
  • フィッシング攻撃による被害事例と影響

トレーニングは、座学だけでなく、実際のフィッシングメールを使ったシミュレーション訓練を取り入れることで、従業員の理解度を高めることができます。

標的型攻撃メール訓練の重要性

標的型攻撃メールは、特定の組織や個人を狙ったメールであり、業務に関連する内容を装って送られてくることが多くあります。このようなメールは、フィッシング対策トレーニングだけでは見抜くことが難しいため、標的型攻撃メール訓練が重要です。訓練では、以下のような点に注意が必要です。

  • 標的型攻撃メールの特徴(業務に関連する件名、知人を装った差出人など)
  • 不審なメールの報告手順とエスカレーション
  • 標的型攻撃による被害事例と影響

標的型攻撃メール訓練は、定期的に実施し、新しい手口に対応した内容に更新していくことが重要です。

セキュリティポリシーの策定と周知徹底

セキュリティポリシーは、組織のセキュリティ対策の基本方針を定めたものであり、従業員が遵守すべき行動規範を示しています。セキュリティポリシーの策定にあたっては、経営層の関与と承認が不可欠であり、従業員への周知徹底が重要です。具体的には、以下のような内容を含めることが推奨されます。

  • パスワード管理の方法(定期的な変更、複雑なパスワードの使用など)
  • 機密情報の取り扱い方法(暗号化、アクセス制御など)
  • 私的なデバイスやサービスの業務利用に関する規定
  • 在宅勤務やリモートアクセスに関するセキュリティ規定

セキュリティポリシーは、定期的に見直しを行い、最新の脅威動向に合わせて更新していくことが重要です。

セキュリティ意識向上キャンペーンの実施

セキュリティ意識向上キャンペーンは、従業員のセキュリティに対する関心を高め、自発的な行動を促すための取り組みです。具体的には、以下のような活動が考えられます。

  • セキュリティ啓発ポスターの掲示やメールによる注意喚起
  • セキュリティ関連のニュースや最新動向の共有
  • セキュリティ意識調査の実施と課題の特定
  • セキュリティ標語の募集や表彰制度の導入

セキュリティ意識向上キャンペーンは、一過性のイベントではなく、継続的な取り組みとして実施することが重要です。また、経営層自らがセキュリティの重要性を発信し、率先して取り組むことで、従業員の意識を高めることができます。

APT攻撃から組織を守るためには、技術的な対策と並行して、従業員教育とセキュリティ意識向上に取り組むことが不可欠です。フィッシング対策トレーニングや標的型攻撃メール訓練、セキュリティポリシーの策定と周知徹底、セキュリティ意識向上キャンペーンなど、多角的なアプローチを通じて、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高めていくことが求められます。組織全体でセキュリティ文化を醸成し、サイバー攻撃に対する備えを強化していくことが、APT対策の重要な柱となるでしょう。

まとめ

APT対策とは、特定の組織を狙った高度で持続的なサイバー攻撃であるAPTから組織を守るための包括的な取り組みです。攻撃の特徴を理解し、多層防御やネットワークセグメンテーション、エンドポイントセキュリティ対策などの技術的対策を講じることが重要です。さらに、SIEM・UEBAを活用した異常検知や脅威インテリジェンスの収集、インシデントレスポンス体制の整備により、攻撃の早期発見と被害の最小化を図ります。加えて、従業員教育やセキュリティ意識向上のための継続的な取り組みを通じて、組織全体のセキュリティ文化を醸成することがAPT対策の鍵となります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム