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CRYPTRECとは? 10分でわかりやすく解説

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近年、サイバー攻撃の脅威が高まる中、企業のシステムセキュリティ対策は重要な課題となっています。その中でも、暗号技術の選定は特に重要です。そこで注目されているのが、日本の暗号技術評価プロジェクト「CRYPTREC」です。CRYPTRECは、暗号技術の安全性や実装性能を客観的に評価し、信頼性の高い暗号技術を選定することで、企業のセキュリティ対策の指針となっています。本記事では、CRYPTRECの概要や評価プロセス、企業への影響や対応策などについて、わかりやすく解説します。

CRYPTRECとは何か

CRYPTRECとは、日本の総務省と経済産業省が共同で運営する暗号技術評価プロジェクトのことです。  情報セキュリティ分野における重要な役割を担っており、暗号技術の安全性や実装性能を客観的に評価することを目的としています。 暗号技術は、データの機密性や完全性、認証などを確保するために不可欠な技術であり、CRYPTRECはその信頼性を高めるために設立されました。

CRYPTRECの目的と役割

CRYPTRECの主な目的は以下の通りです。

  1. 暗号技術の安全性評価
  2. 暗号技術の実装性能評価
  3. 暗号技術の普及促進
  4. 情報セキュリティ技術の向上

CRYPTRECは、これらの目的を達成するために、暗号技術の評価を行い、その結果を公表しています。  評価結果は、政府機関や民間企業におけるシステム構築の際の暗号技術選定の参考として活用されており、情報セキュリティ対策の向上に貢献しています。 

CRYPTRECの設立経緯と運営体制

CRYPTRECは、2000年に総務省と経済産業省が共同で設立したプロジェクトです。設立の背景には、インターネットの普及に伴う情報セキュリティリスクの高まりがありました。暗号技術の重要性が増す中、その安全性や信頼性を客観的に評価する必要性が認識され、CRYPTRECが発足しました。

CRYPTRECは、総務省と経済産業省が共同で運営しており、以下のような体制で活動しています。

  • 暗号技術検討会
  • 暗号技術評価委員会
  • 暗号モジュール委員会
  • 事務局

各委員会は、学識経験者や企業の専門家で構成されており、それぞれの分野で暗号技術の評価や普及促進に取り組んでいます。

CRYPTRECの評価対象となる暗号技術

CRYPTRECでは、以下のような暗号技術を評価対象としています。

暗号の種類概要
共通鍵暗号同じ鍵で暗号化と復号を行う方式
公開鍵暗号公開鍵と秘密鍵のペアを用いる方式
ハッシュ関数任意長の入力から固定長の出力を生成する関数
暗号利用モード暗号アルゴリズムの利用方法を定めたもの

これらの暗号技術は、現代の情報セキュリティを支える重要な要素であり、CRYPTRECによる評価は、その信頼性や安全性を確保する上で欠かせない役割を果たしています。

CRYPTRECの評価基準と評価プロセス

CRYPTRECでは、以下のような観点から暗号技術の評価を行っています。

  • 安全性:暗号技術の理論的な安全性や耐量子計算機性など
  • 実装性:暗号技術の実装における効率性や互換性など
  • 運用性:暗号技術の運用における利便性や管理性など

評価プロセスは、以下のような流れで進められます。

  1. 暗号技術の公募・応募
  2. 事務局による暗号技術の確認
  3. 暗号技術評価委員会による評価
  4. 暗号技術検討会による審議・承認
  5. 評価結果の公表

 評価結果は、「電子政府推奨暗号リスト」としてまとめられ、安全性や実装性に優れた暗号技術が選定されます。 この推奨リストは、政府機関におけるシステム調達の際の暗号選定基準として活用されるほか、民間企業でも広く参考とされています。

CRYPTRECによる暗号技術評価は、情報セキュリティ分野における重要な指標の一つであり、安全で信頼性の高いシステム構築に寄与しています。IT技術の進歩に合わせて暗号技術も日々進化しており、CRYPTRECはその動向を見据えながら、継続的な評価活動を行っています。

CRYPTRECの評価リストと推奨候補暗号リスト

CRYPTRECでは、安全性や実装性能の評価結果に基づき、「電子政府推奨暗号リスト」と「推奨候補暗号リスト」を公開しています。これらのリストは、システム構築の際の暗号技術選定において重要な指標となっています。ここでは、それぞれのリストの意義や内容、特徴などについて解説します。

電子政府推奨暗号リストの意義と内容

電子政府推奨暗号リストは、  CRYPTRECの評価により安全性と実装性が優れていると認められた暗号技術を掲載したリスト です。このリストに掲載される暗号技術は、政府機関のシステムで利用が推奨されるものであり、民間企業においてもシステム構築時の選定基準として広く参照されています。

電子政府推奨暗号リストには、共通鍵暗号、公開鍵暗号、ハッシュ関数、暗号利用モードなど、様々な種類の暗号技術が含まれています。これらの暗号技術は、現時点で最も信頼性が高く、実務での利用に適していると評価されたものです。

推奨候補暗号リストの意義と内容

推奨候補暗号リストは、  将来的に電子政府推奨暗号リストに掲載される可能性のある暗号技術を選定し、掲載したリスト です。このリストの暗号技術は、安全性や実装性の観点から有望視されているものの、まだ十分な評価や検証が完了していないため、推奨候補という位置づけになっています。

推奨候補暗号リストに掲載される暗号技術は、新しい暗号技術の研究動向や国際標準化の状況なども考慮して選定されます。これにより、将来的に主流となる可能性のある暗号技術を先取りし、円滑な移行を促進することを目的としています。

評価リストと推奨候補暗号リストの違い

電子政府推奨暗号リストと推奨候補暗号リストの主な違いは、以下の通りです。

  • 評価の完了度:電子政府推奨暗号リストは十分な評価が完了した暗号技術、推奨候補暗号リストは評価途上の暗号技術が掲載される。
  • 利用の推奨度:電子政府推奨暗号リストは利用が積極的に推奨される暗号技術、推奨候補暗号リストはまだ利用の推奨までは至らない暗号技術が掲載される。
  • 更新頻度:電子政府推奨暗号リストは比較的長期的に安定した内容、推奨候補暗号リストは技術動向に合わせてより頻繁に更新される。

両リストとも、CRYPTRECによる暗号技術の評価活動の成果であり、情報セキュリティ分野における重要な指針となっています。ただし、推奨候補暗号リストの暗号技術は、まだ評価途上であることから、利用にあたっては十分な検討が必要です。

リストに掲載される暗号技術の特徴と用途

電子政府推奨暗号リストや推奨候補暗号リストに掲載される暗号技術は、以下のような特徴や用途を持っています。

  • 安全性:現時点で知られている攻撃手法に対して十分な耐性を持ち、理論的にも安全性が高いと評価されている。
  • 実装性:ソフトウェアやハードウェアへの実装が容易で、効率的な処理が可能である。
  • 相互運用性:他のシステムとの互換性や連携が容易で、標準化された利用方法が定められている。
  • 汎用性:幅広い用途やシステムに適用可能で、ビジネスや社会の要請に柔軟に対応できる。

CRYPTRECの企業の対応

国際標準化動向とCRYPTRECの連携

暗号技術の国際標準化は、グローバルなセキュリティ基盤の構築に不可欠です。CRYPTRECでは、国際標準化機関との連携を強化し、日本発の暗号技術の国際標準化を推進しています。また、国際標準として採用された暗号技術については、CRYPTRECの評価にも反映され、日本国内での利用が促進されます。  企業は、国際標準化動向を注視しつつ、CRYPTRECの評価結果を参考に、グローバル展開に適した暗号技術を選定していくことが重要となります。 

企業におけるCRYPTREC評価の活用と対応策

CRYPTRECの評価結果は、企業のセキュリティ対策や製品・サービス開発に大きな影響を与えます。暗号技術の選定から導入、システム設計・開発に至るまで、CRYPTRECの評価を積極的に活用することが推奨されます。具体的には、以下のような対応策が考えられます。

  • 電子政府推奨暗号リストを参考に、自社システムやサービスに適した暗号技術を選定する。
  • 推奨候補暗号リストの動向を注視し、将来的な暗号技術の移行計画を検討する。
  • CRYPTRECの評価結果を踏まえ、セキュリティを重視したシステム設計・開発を行う。
  • 暗号技術の適切な利用方法や運用体制について、CRYPTRECの評価を参考にする。

 企業は、CRYPTRECの評価結果を積極的に活用し、自社のセキュリティ対策や製品・サービスの信頼性向上に努めることが求められます。 また、暗号技術の進化や国際標準化動向など、CRYPTRECの活動に常に注目し、適切な対応を取ることが重要です。こうした取り組みを通じて、企業は、高度化するサイバー脅威に対抗し、ビジネスの継続性を確保していくことができるでしょう。

まとめ

CRYPTRECとは、日本の暗号技術評価プロジェクトであり、暗号技術の安全性や実装性能を客観的に評価し、信頼性の高い暗号技術を選定することで、企業のセキュリティ対策の指針となっています。CRYPTRECの評価結果は、電子政府推奨暗号リストや推奨候補暗号リストとして公表され、製品・サービスの信頼性向上やシステム設計・開発に活用されます。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム