交通事故や渋滞、公共交通の使いにくさ――こうした交通課題に対して、「道路や車を賢くする」アプローチとして注目されてきたのがITS(高度道路交通システム)です。ITSは単なる車載機能ではなく、車両・道路インフラ・通信・運用(交通管制やサービス提供)を一体として設計する考え方に特徴があります。この記事では、ITSの基本から支える技術、導入効果と課題、今後の展望までを整理し、読了後に「自社・自分の領域でITSがどこに効くのか」を判断できる状態を目指します。
ITSとは、Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)の略称であり、最先端の情報通信技術を用いて人・道路・車両を一体のシステムとして構築する道路交通システムのことを指します。ITSは、交通事故の削減、渋滞の緩和、環境負荷の軽減など、安全で快適な交通社会の実現を目指します。
ITSは、道路交通に関するさまざまな問題を解決するために、情報通信技術(ICT)を活用したシステムの総称です。ITSを「車載の便利機能」と誤解しがちですが、実際には車両側とインフラ側、そして運用側(交通管制・サービス提供)が連携してはじめて効果が出ます。典型的には、以下の要素で構成されます。
これらを組み合わせることで、リアルタイムな交通情報の収集・提供、交通流の最適化、事故防止などのサービスを実現します。
ITSが目指すのは、安全・快適・環境にやさしい交通社会の実現です。重要なのは、単発の施策ではなく「交通の意思決定(走る・止まる・避ける・待つ)をデータで支える」ことにあります。具体的には以下のような効果が期待されます。
| 目的 | 期待される効果 |
|---|---|
| 交通事故の削減 | 危険情報の共有、注意喚起、運転支援の高度化により、事故リスクを低減 |
| 渋滞の緩和 | 交通状況の可視化と信号制御・迂回誘導の最適化により、交通流を改善 |
| 環境負荷の軽減 | 渋滞や無駄な回り道の削減、物流最適化などを通じて排出量を抑制 |
| 利便性の向上 | 運行情報の高度化、料金収受の効率化、移動の計画支援などで体験を改善 |
なお、「自動ブレーキ」などの車載機能はITSの一部として位置づけられることがありますが、ITSはそれに限らず、道路側の情報提供や交通運用まで含めた広い概念です。
ITSの概念は1990年代初頭に欧米を中心に提唱され、日本でも1990年代後半から全体構想の整備や実証・実装が進みました。ITSの発展は情報通信技術の進歩と密接に関係しています。特に近年は、以下の技術進歩により、より高度なサービス設計が現実的になっています。
今後も、これらの技術の進歩に伴い、ITSは「交通をデータで運用する」方向にさらに高度化・多様化していくと考えられます。
ITSを支える主な技術は多岐にわたります。重要なのは、個々の技術名を覚えることよりも、「何のために」「どの条件で」使われるかを押さえることです。
これらを組み合わせることで、運転支援、交通情報提供、料金収受、公共交通の運行最適化などのサービスが成立します。
ITSは、交通を「見える化」して「判断を支える」ことに本質があります。ここでは代表的な機能を、運用の観点も含めて整理します。
道路に設置されたセンサーやカメラなどから収集した交通情報を基に、信号制御の最適化や交通情報の提供を行うことで、渋滞の緩和や交通流の円滑化を図ります。ここでのポイントは、単に情報を集めるだけでなく「誰に・いつ・何を伝えるか」「信号制御や誘導をどう変えるか」まで含めて設計することです。
事故や工事などの情報をいち早く検知しドライバーに提供することは、二次事故のリスク低減にもつながります。ただし、過度な情報提示は逆に運転負荷を増やすため、提示タイミングと内容の最適化が重要です。
車両に搭載されたセンサー等で周囲の歩行者や車両を検知し、衝突リスクが高まった場合に警告や制御支援を行うなど、ドライバーの安全運転をサポートする機能を提供します。ITS文脈では、車両単体の検知に加え、路側機やセンターからの危険情報を取り込むことで「見通しの悪い場所」「先の事故」なども補えるのが特徴です。
バスや鉄道の位置情報を把握し、利用者に正確な運行情報を提供することで、待ち時間の見通しを立てやすくします。また、需要に応じて運行を調整するデマンド交通と連携することで、地域交通の利便性を底上げできます。「いつ来るか分からない」を減らすことが、利用者体験の改善に直結します。
渋滞の緩和や物流の効率化は、燃料消費のムダを減らし、結果として排出量の抑制につながります。また、充電インフラの可視化や経路計画支援など、電動化・シェアリングの運用を支える仕組みとしてITSの技術が活用される場面もあります。環境効果は「単体機能」よりも、交通全体の最適化(停車・迂回・積載のムダを減らす)で出やすい点がポイントです。
ITSの価値は、センシング→通信→処理→提示(または制御)という一連の流れが成立して初めて生まれます。各技術は「何をどれだけ速く・確実に」扱えるかで選定が変わります。
車両や道路の状況を把握するために、カメラ、レーダー、LiDARなどの各種センサーが活用されます。センシングでは「検知できる対象(車両・歩行者・障害物・路面状況)」「検知範囲」「天候耐性」「誤検知率」などが重要です。
ITSでは、車車間・路車間・センター間など多様な通信が行われます。代表例として、短距離無線系やセルラー系V2X(4G/5Gを含む)の枠組みがあり、用途によって選択が変わります。リアルタイム性(低遅延)と信頼性(高可用)、そしてカバレッジのバランスが設計上の焦点です。
ITSでは、センサーから収集された大量データを処理し、有用な情報へ変換する必要があります。そのために、ビッグデータ処理やAIが活用されます。ここで重要なのは、AIを入れること自体ではなく、誤判定時の影響を想定し、運用に落とし込むことです。
ITSでは、ドライバーや利用者に適切な情報を提供し、行動を支援することが重要です。車載ディスプレイ、HUD、音声インターフェースなどを用いて、認知負荷を増やさずに必要情報を届けます。
ITSは社会的な便益が期待される一方で、導入の難しさも「技術」だけでなく「運用」と「合意形成」にあります。ここでは効果と課題をセットで整理します。
ITSの導入は、交通事故リスクの低減、渋滞の緩和、環境負荷の軽減などの効果が期待されます。事故防止の文脈では、危険地点の注意喚起、見通しの悪い交差点での情報提供、交通管制による速度抑制などが含まれます。渋滞対策では、信号制御や迂回誘導、物流の運行最適化など、複数施策の組み合わせで効果が出やすくなります。
国内外でITSは段階的に導入されており、情報提供や交通制御、公共交通の運行情報提供などで効果が報告されています。例えば、事故リスクの高い区間で注意喚起や情報提供を強化することにより、事故やヒヤリハットの抑制が期待できます。また、バスロケーション等の運行情報提供は、待ち時間の不確実性を下げ、利用者体験の改善につながります。
ただし、成果は地域の交通条件や運用設計に左右されます。「導入すれば必ず改善する」とは言い切れないため、KPI設計(事故件数、旅行時間、定時性、利用者満足度など)と継続的な評価が重要です。
ITSの普及には、複数の課題が存在します。まず、導入・運用コストがかかるため、費用対効果の設計(どの効果を、どの指標で測るか)が欠かせません。加えて、システムは長期運用が前提となるため、保守性・更新性も重要になります。
これらを適切に解決しながら、運用主体(行政・道路管理者・事業者・民間サービス)が連携して推進することが求められます。
今後、ITSは自動運転やMaaS(Mobility as a Service)との連携で、より重要性が増すと考えられます。自動運転が進展すると、車両側の知能だけでなく、道路側の情報提供や運用(工事情報、落下物情報、優先信号など)が安全性と効率を左右します。また、MaaSでは、交通手段をまたいだ移動計画や料金・予約の統合など、データ連携が前提となります。
さらに、収集データの活用が進めば、交通計画の最適化(混雑予測に基づく施策、需要に応じた運行)や、新たなサービスの創出も期待できます。ただし、データ活用を進めるほど、ガバナンス(目的・権限・責任)とセキュリティの重要性は高まります。
ITS(Intelligent Transport Systems)は、情報通信技術を活用して交通に関する課題を解決するための「車両・道路・運用を一体化したシステム」です。交通管理の最適化、事故防止と安全運転支援、公共交通の利便性向上、環境負荷の低減など、多面的な効果が期待されます。ITSを支える技術は、センシング、通信、データ処理・解析、HMI、セキュリティと幅広く、重要なのはこれらを目的と条件に合わせて組み合わせ、運用に落とし込むことです。導入効果は期待できる一方で、コスト、相互接続性、セキュリティ、プライバシー、障害対応などの課題もあるため、KPI設計と継続的な評価・改善を前提に進めることが望まれます。
同じではありません。ITSは車両・道路インフラ・運用を含む概念で、自動運転はITSを支える要素の一つとして位置づけられます。
安全性の向上と交通流の改善が代表的です。事故リスク低減と渋滞緩和は、多くの導入目的として設定されます。
交通量、速度、混雑、事故・工事情報、車両位置などを扱います。用途に応じて粒度や更新頻度が変わります。
安全系は低遅延・高信頼を重視し、情報提供系は広域配信と更新頻度の最適化を重視します。
事故件数、旅行時間、定時性、利用者満足度などのKPIを事前に定義し、導入前後で継続的に評価します。
受けます。雨雪や逆光などで性能が変動するため、設置条件や冗長化、運用ルールの設計が重要です。
問題になります。位置情報などの扱いは目的・権限・保管・匿名化の方針を明確にし、適切に管理します。
なりすまし、改ざん、不正アクセスへの対策が重要です。暗号化と認証、運用監視を前提に設計します。
あります。運行情報の可視化や需要に応じた運行支援により、待ち時間の不確実性を下げられます。
自動運転やMaaSとの連携が進み、データ連携と運用最適化の重要性が高まります。