ラテラルムーブメントとは? わかりやすく10分で解説
サイバーセキュリティの世界には多くの攻撃方法が存在しますが、その1つに「ラテラルムーブメント」という技術があります。
この記事では、ラテラルムーブメントが何か、それがサイバーセキュリティにどのような影響を及ぼし、どのような流れで実行されるのか、そして技術的な側面について説明します。
この記事で基本知識を理解して、攻撃を予防し早期に対策を講じましょう。
ラテラルムーブメントとは
ラテラルムーブメント(水平移動)は、ネットワークに侵入した攻撃者がそのネットワーク内で自由に移動し、他のシステムやデータへアクセスする技術を指します。多くの場合、攻撃者が目標とするデータやシステムにアクセスするためには、初期の侵入地点からさらに内部へと移動する必要があります。サイバー攻撃の被害範囲に関わるため、この技術について理解することは重要です。
攻撃者はラテラルムーブメントを利用して、できるだけ多くのシステムを探し、どこに弱点があるかを見つけ出します。そして、見つけ出した弱点を用いてネットワーク内で攻撃範囲を広げていきます。
この技術により攻撃者は、ネットワーク内での動きを隠蔽し、特定されるのを避けようとするのです。
サイバーセキュリティにおけるラテラルムーブメントの重要性
サイバーセキュリティにおけるラテラルムーブメントの重要性は、その隠蔽性と広範性にあります。この技術を使うことで、攻撃者は長期間にわたりネットワーク内に存在し、幅広い範囲に渡る情報にアクセスできるようになります。また、侵入後の行動を隠蔽するため、早期の発見が困難となるため、気づいたときには深刻なセキュリティ侵害を引き起こしかねません。
そのため、ラテラルムーブメントの防止・対策は、サイバーセキュリティの一部となっています。
ラテラルムーブメントを使った攻撃の流れ
ラテラルムーブメントを使った攻撃は、ネットワークへの最初の侵入口から始まります。攻撃者はネットワーク内の様々なポイントを探し、その中で特権エスカレーション(本来持つべき以上の特権を獲得すること)を試みます。
特権エスカレーションに成功すると、攻撃者はネットワーク内の任意の位置に移動する能力を手に入れます。これにより、ネットワーク全体に影響を及ぼす攻撃が行われる危険性があります。
この流れを理解して、事前に防衛策を立てることが重要です。
ラテラルムーブメントの技術的な側面
ラテラルムーブメントは、様々な技術を用いて実現されます。脆弱性を利用したり、マルウェアを用いたり、ソーシャルエンジニアリングを駆使したりなど、使われる技術は多岐にわたります。これらの攻撃により、攻撃者は初期の侵入点からネットワーク内の他のシステムに攻撃の範囲を広げることができてしまいます。
なお、最新の防御手段には、ペネトレーションテスト、ゼロトラストセキュリティ、エンドポイントセキュリティ、IDおよびアクセス管理(IAM)などがあります。
ラテラルムーブメントの手法
ラテラルムーブメントとは、サイバー攻撃者が侵入初期地点からネットワークの他の部分に拡散し、感染を広げるプロセスを指します。これを行う攻撃者の目的は、発見されるのを避けつつネットワーク内を自由に移動して存在を維持することです。ここでは、主な手法について説明します。
マルウェアの利用
ラテラルムーブメントの際に用いられる最も基本的な手法はマルウェアの利用です。攻撃者は、マルウェアを初期の侵入地点であるコンピュータにインストールし、そのマルウェアを介してネットワーク上の他のコンピューターに感染を広めます。その結果、攻撃者はネットワーク全体を掌握し、重要な情報を盗み出すことが可能になります。
マルウェアを用いたこの手法は、比較的シンプルで広範な作戦網を構築することが可能です。
C&Cサーバの利用
次に、C&C(Command and Control)サーバを利用する例です。これは攻撃者がC&Cサーバを通じて、侵入先のネットワーク内のコンピュータに命令を送ることにより感染を広げる手法です。
この手法によって攻撃者は、侵入先のネットワークを自在に操り、かつ感染箇所を迅速に拡大することが可能となります。
ソーシャルエンジニアリング
最後に、ソーシャルエンジニアリングという手法があります。これは人間の心理を利用した攻撃で、信頼関係や欺きを通じて情報を入手したり、影響力を増大させる方法です。
一見技術的な攻撃ではないかもしれませんが、攻撃者はユーザ名やパスワードなどの重要な情報を奪い、高度な特権を得ることもあります。これによりネットワーク内でのラテラルムーブメントを容易に行うことが可能となります。
ソーシャルエンジニアリングについては、以下の記事で詳しく解説しています。
ソーシャルエンジニアリングとは? わかりやすく10分で解説
各手法の比較
以上の3つの手法は、それぞれ利点と弱点があります。マルウェアの利用はシンプルで広範な感染が可能ですが、検出リスクがあります。C&Cサーバの利用は効率的な制御が可能ですが、C&Cサーバが特定される危険性があります。
一方、ソーシャルエンジニアリングは人間の心理を利用した手法であり、技術的な防御策を突破する能力がありますが、成功率が不確定であり、大規模な網の掌握が難しいという課題があります。
これらの手法を理解し、適切な防御策を講じることが、ラテラルムーブメントによるサイバー攻撃から企業ネットワークを守るためには必要不可欠です。
ラテラルムーブメントの高度化
サイバーセキュリティの世界は、常に進化しています。攻撃者もまた技術を更新し、より効率的で狡猾な方法を研究しています。その結果、ラテラルムーブメントにおける攻撃手法も日々高度化しているのです。その主な要因は、速度の高速化、複数手法の同時利用、既知の攻撃手法のバリエーション、そして自動化の活用です。次にこれらの要素について詳しく見ていきましょう。
攻撃速度
ラテラルムーブメント攻撃の高度化の一つ目は、攻撃の「速度」です。これは、攻撃者が侵入後、どれだけ素早くネットワーク内を移動し拡散するかを示しています。攻撃が高速化すると、検出される前により多くのシステムに感染させ、攻撃の被害が拡大する恐れがあります。
この高速化に対抗するためには、適切なモニタリングと迅速な数値分析が必要です。また攻撃が発生した場合に即座に対処できる体制を整えることも重要です。
複数手法の同時利用
2つ目の高度化の要素は、複数の手法を同時に利用することです。攻撃者は、特定のシステムをハッキングしやすい手法を見つけ、それらを同時に使用します。これは、セキュリティシステムを回避し、侵入を容易にするために行われます。
この戦略に対抗するには、多岐にわたるセキュリティ対策が必要です。また攻撃手法を学習し予防策を考えることも非常に有効な手段となります。
既知攻撃手法のバリエーション
3つ目の高度化の要素は、既知の攻撃手法のバリエーションです。すでに一度使用された技術や手法を駆使し、それらに新たな要素を加えて新たな手法を生み出すことを指します。これにより、攻撃者は防御策の行き詰まりを解消し、システムの抜け穴を狙います。
これに対抗するには、既知の攻撃パターンを学習し、それに対する予防策を常に更新し続けることが必要です。
自動化ツールの活用
高度化の最後の要素は、「自動化」です。自動化ツールの利用をすることで、攻撃の速度が上がるだけでなく、配布するマルウェアの量も増える効果があります。自動化により、攻撃者は労力をかけずに大量の攻撃を行うことが可能となります。
自動化攻撃に対抗するには、自動化防御システムを導入し、異常な行動を検出した場合すぐに対応できる体制を作ることが求められます。
ラテラルムーブメントの基本的な対策
ラテラルムーブメントは、企業ネットワークへの巧妙な侵入手段の一つです。攻撃者は侵入したネットワーク上の複数の部分に拡散し、一度攻撃が開始されると、検出が困難となる可能性があります。ここでは、ラテラルムーブメントから企業の重要なアセットを守るための基本的な対策について解説します。
ラテラルムーブメントを効果的に防ぐには、組織全体のセキュリティ対策を見直し、最新のセキュリティプラクティスを取り入れることが重要です。これらは、攻撃者の動きを発見し、影響を最小限に抑えるのに役立ちます。
特に注視すべきは、ネットワークの隔離、侵入検知システムの導入、最小特権の原則の適用、さらには感染端末のモニタリングと隔離です。ここでは、それぞれの詳細について解説します。
ネットワークの隔離
ネットワークの隔離は、ネットワーク全体が一度に感染するのを防ぐための重要な対策です。特定の部分だけを隔離することで、一部のシステムが感染しても他の部分に広がらないように制御することが可能です。
ネットワークのセグメンテーションにより、各セグメント間の通信を制御し、厳格なアクセス制御を適用することが可能になります。ただし、隔離せずにすべてのシステムが接続されている場合、攻撃者は侵入したシステムから他のシステムへと容易に攻撃範囲を広げることができます。
したがって、ネットワークの適切な隔離とセグメンテーションは、ラテラルムーブメントのリスクを軽減するのに不可欠です。
侵入検知システムの導入
侵入検知システム(IDS)は、ネットワークやシステムに対する不審な動きをリアルタイムで検出することができます。これは、ラテラルムーブメントの検出に不可欠なツールであり、潜在的な攻撃を早期に検知することで、対策を講じるための貴重な時間を提供します。
IDSは、通常、ネットワークトラフィックの異常なパターンや、既知の攻撃のシグネチャを検出することで機能します。これにより、攻撃者がネットワーク内で拡散するのを防ぐことができます。
最新の侵入検知システムは、AIや機械学習を利用して、新しい脅威を予測し、ますます高度化する攻撃に対応するための多機能性を備えています。
最小特権の原則の適用
最小特権の原則とは、ユーザーやシステムが必要最低限の権限しか持たないように調整することです。この原則を適用することで、攻撃者が権限エスカレーション(取得すべきでない特権の獲得)を行うのを難しくします。
システム管理者やエンドユーザーに十分な権限を与えることは必要ですが、これにはかなりのリスクを伴います。多くの権限を持つユーザーのアカウントが侵害されると、攻撃者はそれを利用してネットワーク内で自由に動き回ることが可能となるからです。
最小特権の原則は、特に管理者アカウントや重要なシステムアカウントの管理において重要です。これらのアカウントが不正に使用されると、企業全体に甚大な被害をもたらす可能性があります。
感染端末のモニタリングと隔離
絶えずモニタリングを行い感染した端末を迅速に隔離することで、攻撃からネットワーク全体を守ることができます。感染を早期に検出し、速やかに隔離することが、攻撃の影響を最小限に抑えることにつながります。
エンドポイント保護プラットフォーム(EPP) やエンドポイント検出対応(EDR)ソリューションは、個々のエンドポイントでの活動を監視し、異常な振る舞いを検出するのに役立ちます。これらのツールは、感染したエンドポイントを自動的に隔離し、ネットワークから切り離す機能を備えています。
このようなマルウェア対策ツールの効果的な利用は、ラテラルムーブメント攻撃を防止し、それがネットワーク全体に広がるのを防ぐ上で極めて重要です。
ラテラルムーブメント対策の高度化戦略
ラテラルムーブメント、つまりサイバー攻撃者のネットワーク内での水平移動を阻止するには、一連の高度な対策戦略を実行することが求められます。
一部の最先端の防御手段を挙げると、ゼロトラストセキュリティ、エンドポイントセキュリティ、IDおよびアクセス管理(IAM)、そしてペネトレーションテストなどがあります。
これら全ての防御戦略が適切に実装され、作動すれば、ネットワークは極めて堅固な防衛線を築けるでしょう。
ゼロトラストセキュリティの導入
ゼロトラストというアプローチは、組織のセキュリティ対策が「何も信じない」という方針に基づくことを意味しています。
つまり、ユーザーやデバイスがネットワーク内外のどちらにいても、常にそのアクティビティを検証し続けるべきというのがゼロトラストの基本原則です。
この手法を効果的に利用すれば、悪意のあるアクターや不正なアクティビティを早期に見つけ出し、それらがネットワーク内を自由に動くのを防ぐことが可能となります。
ゼロトラストについては以下の記事で詳しく解説しています。
ゼロトラストとは? 境界型セキュリティに変わる概念で情報資産を守ろう
エンドポイントセキュリティの強化
エンドポイントセキュリティは、各々の端末がサイバー脅威から保護されていることを確認するものです。
これにより、攻撃者が最初にターゲットとする個々のデバイスを堅固に保つだけでなく、ネットワーク内に侵入しようとする邪悪な意図を防ぐことができます。
そして、これによりラテラルムーブメントによる被害を最小限に抑えることが可能になります。
エンドポイントについては以下の記事で詳しく解説しています。
EPPとは? わかりやすく10分で解説
IDおよびアクセス管理(IAM)の適用
ID及びアクセス管理(IAM)は、ネットワークに適切なアクセス許可を持つユーザーのみがアクセスできるように制御する手段です。
これは、特に企業のネットワークにおける必要不可欠なデータセキュリティ対策の一つとされ、職員同士が必要な情報にのみアクセスできるようにするためのものです。
このIAMの適用により、不正なアクセスやデータの流出リスクを大幅に削減することが可能となります。
ペネトレーションテストの定期実施
定期的に実施するペネトレーションテストは、組織のネットワーク防御を試すための実用的な手段まで成長してきました。
このテストによってネットワークの脆弱性を特定し、その後で修正することでサイバー攻撃を防いだり攻撃によるダメージを大幅に軽減したりすることができます。
ペネトレーションテストを実施することは、組織がサイバーセキュリティ戦略をどのように進化させるべきかについての貴重な洞察を提供し、結果的にラテラルムーブメントを含む各種攻撃からネットワークを保護するのに一役買うはずです。
ペネトレーションテストについては以下の記事で詳しく解説しています。
ペネトレーションテストとは? わかりやすく10分で解説
ラテラルムーブメント対策のこれから
ラテラルムーブメント攻撃の脅威は増大し、企業と組織は新たな対策を探し続けています。今後の対策には、AIと機械学習の活用、自動対応システムの導入、プライバシーとセキュリティのバランス、シャドーITとの闘いなど、デジタル化が進んだ現代ならではの課題と可能性を内包しています。
最新の技術と戦略的なアプローチをうまく組み合わせることで、ラテラルムーブメント攻撃を効果的に防御し、組織のセキュリティを維持することが可能となります。
ここでは、これらのキーポイントに焦点を当てた新たな対策について詳しく解説します。
AIと機械学習の活用
AIと機械学習は、新世代のセキュリティ対策におけるラテラルムーブメント攻撃の領域において大きな役割を果たしています。
これらの技術は、異常なネットワーク行動の早期検出や、攻撃者の動きを予測するのに役立ちます。これにより、侵害を早期に特定し、速やかに対応することが可能となります。
加えて、AIと機械学習を活用したシステムは、従来の防御策に対する攻撃者の新たな手法にも迅速に適応し、組織のセキュリティを高めることが期待できます。
自動対応システムの導入
攻撃を早期に発見するだけではなく即座にアクションを起こす自動対応システムを導入することで、ラテラルムーブメント攻撃からの保護を強化できます。
例えば、異常なネットワーク行動が検出されたとき、システムは自動的に対応をとり、そのユーザーのアクセスを遮断するなどの対策行動を起こすことが可能になります。
この即時性と効率性により、攻撃者がネットワーク内で広範に拡散する時間を削ぎ落とし、パフォーマンスの影響を最小限に抑えることができます。
プライバシーとセキュリティのバランス
セキュリティとプライバシーとの間には、しばしば緊張感があります。ネットワークの監視による攻撃の早期発見は重要ですが、同時に個々のプライバシーを尊重することもまた、組織に求められる課題です。
今後の対策ではこのバランスをとることも重要であり、特に重要なのは、個々のユーザーのデータに対するアクセスと監視を適切に管理することです。
この課題に向け、プライバシーを尊重した上で効果的なセキュリティ対策をとる新たなフレームワークや方針が検討・導入されると考えられます。
シャドーITとの闘い
シャドーITとは、組織公式のIT部門やポリシー外で使用されるITシステムやソフトウェアを指します。このシャドーITは、攻撃者が組織内に侵入し、ラテラルムーブメントを行う可能性のある「隙間」を作り出す可能性があります。
それゆえ、シャドーITの検出と管理は、ラテラルムーブメント攻撃の対策として積極的に取り組むとよいでしょう。
組織全体での教育や周知を徹底することに加え、未承認のソフトウェアやアプリケーションの使用を監視・制限するツールの導入も考慮することで、強固な対策を行えます。
シャドーITについては以下の記事で詳しく解説しています。
シャドーITとは? セキュリティリスクと企業がとるべき対策
Pickup ピックアップ
-
インタビュー
「切れない」VPNに認証の側面から安心をプラス|Absolute Secure Access ✕ Soliton OneGat...
-
イベント報告
【ウェビナー】知っておきたい「医療ガイドライン第6.0版」のポイントと、求められるセキュリティ対策とは?|アクシオ×ソリトンシ...
-
インタビュー
フルマネージドの連携ソリューションで快適かつ安全な無線環境を負荷なく実現|Hypersonix × Soliton OneGa...
-
インタビュー
「まずは認証から」現場の課題に寄り添い、実現可能なゼロトラストセキュリティソリューションを提案|萩原テクノソリューションズ×ソ...
-
インタビュー
新たな脅威への対応まで『任せられる』。「Prisma SASE」で、組織のセキュリティ対策をシンプルに強化|パロアルトネットワ...