トレンド解説

物流の2024年問題とは?働き方改革関連法と併せて解説

アイキャッチ
目次

物流業界における「2024年問題」をご存知でしょうか。物流の2024年問題は、物流業界だけでなく、荷物を発送する荷主や受け取る一般消費者にも多大な影響を及ぼします。すべての人にとって、物流の2024年問題は無視できないものといえるでしょう。

この記事では、そのような物流の2024年問題について、概要から具体的な影響や対策について解説していきます。

 

物流の2024年問題とは?

はじめに、物流の2024年問題について、概要から注目される背景、問題のポイントを簡潔に解説します。

 

2024年問題とは

物流の2024年問題とは、働き方改革関連法によって物流業界(とりわけドライバー)の時間外労働時間が規制されることで発生するさまざまな問題の総称です。

働き方改革関連法は2019年から順次施行されていますが、2024年4月から自動車運転業務における時間外労働の上限が年960時間に制限されます。この法律が適用されることで、トラックドライバーの稼働時間が減少して輸送能力が不足するとみられています。このことからドライバーの収入減少・物流企業の売上減少・運賃の値上げ・ドライバー不足の深刻化につながると考えられており、これらを総称して物流の2024年問題と呼ばれています。物流の2024年問題による影響については、後ほど詳しく解説します。

 

2024年問題が注目される背景

物流の2024年問題が注目される背景としては、その影響範囲の大きさが挙げられます。物流業界で働く人々だけでなく、荷主や一般消費者にも影響が及ぶため、ほぼすべての人に影響が及びます。トラックドライバーの労働が制限されることで輸送力が低下し、荷物を出したいときに出せない、受け取りたいときに受け取れない、といった事態が引き起こされかねません。また、運賃の値上げによる物流関連コストの高騰も問題になるでしょう。

経済産業省が公表する「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の資料によれば、輸送能力は2024年に14.2%、2030年には34.1%が不足するとみられています。輸送量で表すと2024年に4.0億トン、2030年に9.4億トンが不足することになります。

 

物流業界における2024年問題のポイント

物流の2024年問題は、物流業界だけで対策、解決できるものではありません。トラックドライバーの長時間労働は課題視されていますが、働き方改革関連法へ対応して長時間労働を制限するとしても、現状のままでは輸送能力の低下は免れません。

例えば、1ヶ月のトラックドライバーの拘束時間を見てみると、時間外労働を80時間行ったとして、172時間の法定労働時間(週40時間×4.3週)+休憩時間22時間(1日1時間×22日)で1ヶ月の拘束時間は274時間となります。

しかし、厚生労働省が公表する「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果」によれば、2021年度の集計結果で274時間を超える事業者は全体の約34%も存在します。そのため、現状のまま労働時間を短くするだけでは、輸送能力が低下してしまう、というわけです。


トラックドライバーの長時間労働(拘束時間の増加)の原因としては、次のような要因が考えられており、それぞれに対策を講じる必要があります。

 

  • 荷物の発着時、荷主のところで待ち時間が発生する
  • 荷主からのオーダーに合わせた効率的な配送計画が作れていない
  • 納品までのリードタイムや時間指定などの条件が厳しい
  • 積み込みや荷下ろしに時間がかかる

 

 

働き方改革関連法とは?

働き方改革関連法とは、人手不足による長時間労働や働き方の多様化に合わせて、労働者の健康と働きやすさを重視した環境を整備することを目的に改正された法律です。2018年に改正法が成立した後、2019年から順次施行されています。

働き方改革関連法は、日本のすべての企業に適用される法律であり、業種や企業規模によって適用の猶予が設けられています。時間外労働に関しては、中小企業に対する「月60時間超の時間外割増賃金率の引き上げ」が2023年4月から施行されました。そして、2024年4月からは、すべての企業における「時間外労働の上限規制:自動車運転業務の年950時間の適用」が施行されます。自動車運転業務における時間外労働の上限規制によって、物流の2024年問題が生じています。

 

働き方改革関連法については、こちらの記事で詳しく解説しているため併せてご覧ください。

「働き方改革関連法とは? 企業の課題や必要な対策など」

 

働き方改革関連法における物流関連企業が注意すべきポイント

働き方改革関連法では、違反した場合の罰則が設けられています。物流の2024年問題に該当する「時間外労働の上限規制:自動車運転業務の年950時間の適用」の罰則は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっており、決して無視することはできません。働き方改革関連法の適用により、物流関連企業が注意すべき主な5つのポイントを以下にまとめました。

 

拘束時間の制限

  • 1日の拘束時間は13時間以内、最大15時間/14時間超は週2回までが目安
  • 例外として、宿泊を伴う長距離貨物輸送の場合は、週2回まで16時間まで延長可能
  • 1ヵ月の拘束時間は原則284時間以内
  • 労使協定を締結すれば、6ヵ月までは1ヵ月310時間まで延長可能
  • 1年間の拘束時間は原則3,300時間以内
  • 労使協定を締結すれば、年間3,400時間まで延長可能

※「2人乗務の特例」「隔日勤務の特例」「分割休息の特例」などの特例あり

 

休息期間の確保

  • 休息期間とは勤務終了後、次の勤務に入るまでの時間のこと
  • 休息期間は継続11時間を基本とし、9時間を下回らないこと
  • 例外として、宿泊を伴う長距離貨物輸送の場合は、継続8時間以上の休息期間を設ける
  • 例外として、休息期間が9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上の休息期間を与える必要がある

※「2人乗務の特例」「分割休息の特例」などの特例あり

 

連続運転時間に関する規制

  • 連続して運転できる時間は4時間以内
  • 原則として、1回10分以上、合計30分以上の休憩時間を設ける
  • 例外として、サービスエリアやパーキングエリアに駐停車できない場合などは、連続運転時間を4時間30分まで延長可能

 

時間外労働と休日労働に関する制限

  • 自動車運転業務における労働時間は、原則月45時間、年360時間
  • 臨時的な事情がある場合でも、時間外労働の上限は年960時間
  • 休日労働は2週間に1回を超えないこと
  • 休日労働の拘束時間の上限を超えないこと

 

割増賃金の引き上げ

  • 1ヵ月の時間外労働が60時間以下の割増賃金率は25%
  • 1ヵ月の時間外労働が60時間超の割増賃金率は50%
  • 22時から翌5時(23時から翌6時の場合もあり)の時間外労働には、深夜割増賃金として25%を加算する

 

しかし、前述のとおり、現状のまま働き方改革関連法のとおりに対応を行っても、輸送能力の低下は免れず、企業活動にも多大な影響をもたらすでしょう。物流の2024年問題は物流関連企業だけでなく、日本社会全体で取り組む必要があります。

 

物流業界における2024年問題の影響

物流の2024年問題でもたらされる具体的な影響としては、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは懸念されている4つの具体的な影響を解説します。

 

ドライバーの収入減少

物流業界で働く多くのトラックドライバーは長時間の時間外労働をしており、時間外手当を受け取っているケースが多いでしょう。しかし、働き方改革関連法の適用により、時間外労働が制限されることで時間外手当が減少し、ドライバーの収入減少につながる可能性があります。時間外労働の割増賃金の引き上げも行われますが、労働時間の制限による影響のほうが大きいと考えられます。

世の中の流れとしては、ドライバーの賃金が上昇するように進められていますが、物流関係企業の間で対応状況は異なるでしょう。そのため、ドライバーの収入が減少する可能性は、物流の2024年問題の影響の一つとして捉えておくべきです。

 

ドライバー不足の深刻化

トラックドライバーは2006年の96万人をピークに年々減少を続け、2017年時点で80万人を下回っています。さらに、厚生労働省が公表する「令和3年賃金構造基本統計調査」によれば、大型トラック運転者の平均年齢は49.9歳、中小型トラックは47.4歳と運転者の高齢化が進んでいます。加えて、29歳までの若年層のドライバーの割合は、大型トラックが3.2%、中小型トラックが11.6%となっており、若手の人材不足も相まってドライバー不足が大きな課題となっているのです。

このような現状のなかで、物流の2024年問題によってドライバーの収入減少などの影響を受ければ、今まで以上にドライバー不足の深刻化が加速するおそれがあります。

 

物流企業の売上減少

企業側としては、時間外労働の割増賃金の引き上げで支払いが増えるため、時間外労働時間を削減しなければ人件費が増加し、売上が減少する可能性があります。しかし、現状のまま時間外労働時間を削減すれば、輸送能力の低下につながり直接売上が減少する要因になりかねません。

支出が増える可能性があるにも関わらず、1日の運搬量は減ることが予想されるため収入も減少します。このような問題を解決するためには、労働環境の見直しと業務の効率化が必要です。

 

運賃の値上げ

前述のとおり、売上が減少することが予想されるため、対策として運賃の値上げを検討する企業は多くなるでしょう。しかし、運賃を値上げすることで顧客の確保が難しくなるかもしれません。また、荷主は配送に係るコストを削減したいと考えると思いますが、2024年問題は物流業界全体に影響を及ぼすため、運賃の値上げを余儀なくされた企業に依頼せざるを得ない状況に陥る可能性があります。その結果、物流に係るコストの増加により、物流企業だけでなくさまざまな企業でも売上が減少する可能性が考えられます。

 

 

物流業界に求められる2024年問題への対策

物流は荷主・物流企業・一般消費者の3者間で成り立っているため、いずれか一要素だけで対策を講じても効果が期待できません。そのため、物流の2024年問題への対策としては、物流企業だけでなく荷物を預ける荷主や、荷物を受け取る一般消費者も含めた物流全体で実施することが重要です。

 

トラック事業者、物流企業の対策

トラック事業者・物流企業の対策としては、労働環境の改善や業務の効率化を中心に取り組みます。時間外労働を減らすための労働時間の調整や、運行計画の見直しなどにより、トラックドライバーの稼働時間を削減できるように労働環境を改善します。労働環境の改善は、新規人材(ドライバー)を確保するための一手にもなるでしょう。

労働環境の改善と併せて、業務のIT化、DXを促進する必要があります。IT技術の活用例としては、車両位置や状態をリアルタイムに管理し、輪配計画の進捗管理などが実現できるサービスを導入する方法があります。その他には、荷物の積み込みや荷下ろしにかかる時間を短縮・効率化するために、機械(ロボット)を導入することも検討するとよいでしょう。

少子高齢化が進んだ現代の日本社会では、今後も人手不足の状況が続くことが予想されるため、業務の効率化が欠かせません。業務のIT化・DXを推進することは、労働環境の改善にも効果が期待でき、デジタル化や自動化によって業務の効率化が進みます。トラック事業者・物流企業では、これらの対策が物流の2024年問題の解決に向けた取り組みとして重要です。

 

荷主、一般消費者の対策

荷主や一般消費者は物流の2024年問題を認識し、物流企業などと協力して対策を講じる必要があることを認識するところからはじめます。例えば、荷主は物流企業などが働き方改革に取り組むための適切な運賃の設定に協力したり、高速道路利用料などの運送以外に発生する料金の支払いを行ったりすることが対策の一つとして挙げられます。

一般消費者は、再配達を減らすために確実に受け取れる日時を指定する、宅配ボックスなどを用意して置き配に対応する、などの対策が考えられるでしょう。また、ECサイトなどを利用する際には商品を小分けに注文するのではなく、まとめて注文・購入して配送回数を削減することなども対策になります。

物流業界の状況が悪くなれば、最終的にその影響を受けるのは荷主や一般消費者です。そのことを理解した上で、物流企業などと協力して対策に取り組むことが重要です。

 

政府の緊急対策「物流革新緊急パッケージ」

物流の2024年問題に対して、政府は2023年10月6日に物流の2024年問題に関する関係閣僚会議を開きました。そのなかで決定した緊急対策は「物流革新緊急パッケージ」として、10月中にまとめて経済対策に反映する予定となっています。物流革新緊急パッケージでは、次の6つを柱として物流企業の支援を検討しています。


  1. 置き配やゆとりある配送を選ぶ消費者にポイント還元
  2. 鉄道や船舶の輸送量を今後10年で倍増する
  3. 荷主企業に「物流経営責任者」を置くことを義務付け
  4. 「集中監視月間」(11月~12月)を創設。トラックGメンの監視強化
  5. 高速道路での自動運転トラック走行へ環境整備
  6. 適切な運賃確保・賃上げへ2024年通常国会での法制化目指す

 

荷主や一般消費者の行動変容を促す目的で置き配ポイントの還元事業を展開したり、輸送手段を鉄道・船舶などに転換する「モーダルシフト」を推進したりと、物流企業だけでなく荷主・一般消費者も含めて、対策を実施しやすい環境づくりが進められています。


また、適正な運賃確保や賃上げに必要な法整備も進められ、物流経営責任者を荷主企業に置くことを義務付けたり、物流量が多い11月/12月に不適正な取引を監視したりと、物流全体の状況改善に向けた取り組みが進められる予定です。これらの法律は、2024年の通常国会への関連法案の提出を目指しています。

 

 

まとめ

働き方改革関連法の「自動車運転業務」に対する時間外労働の上限規制が2024年4月1日から適用されます。それに伴うトラックドライバーの稼働時間の減少、輸送能力の不足が物流の2024年問題における大きな課題です。人手不足や労働環境の課題を抱える物流企業は多く、物流の2024年問題を解決するためには物流企業だけでなく、荷主や一般消費者も含めた全体的な対策が求められます。

物流企業はIT化・DXを推進するとともに、労働環境の改善・業務の効率化を実現し、荷主や一般消費者も物流企業の変化に合わせた対策を実施しなければなりません。物流の2024年問題は日本政府も対策が必要と考えており、2023年10月6日に「物流革新パッケージ」として支援策を示しました。今後、経済対策に反映される予定となっているため、動向をチェックしておきましょう。

 

物流の2024年問題がもたらす影響は、物流業界だけでなく日本社会全体に及びます。どの立場でも影響が及ぶ可能性があるため、他人事と思うのではなく自ら課題を見直して対策を実施することが重要です。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム