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モラルハザードとは? 10分でわかりやすく解説

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UnsplashEyosias Gが撮影した写真      

会社の経費で豪華な接待をしたり、業務外の目的で会社の車を利用したりするようなことはありませんか?このような行動は、モラルハザードの一種と言えるかもしれません。この記事では、モラルハザードとは何か、どのような状況で起こりやすいのか、企業はどのように対策すべきかについて、分かりやすく解説します。モラルハザードについて正しく理解することで、組織や社会にとって望ましくない行動を抑止し、健全な経済活動を営むことにつながるでしょう。

モラルハザードとは何か

モラルハザードとは、経済学の用語で、保険や保証などによってリスクから守られていると感じることで、かえってリスクのある行動をとってしまう現象を指します。つまり、自分の行動によって生じるリスクを他者が負担してくれるため、自分の行動を慎重に考えなくなってしまうのです。

モラルハザードが起こるメカニズム

モラルハザードが起こるメカニズムは、以下の通りです。

  1. 保険や保証などによって、リスクから守られていると感じる
  2. 自分の行動によって生じるリスクを他者が負担してくれると考える
  3. 自分の行動を慎重に考えなくなる
  4. リスクのある行動をとってしまう

このように、モラルハザードは、リスクを負担する主体と、リスクをとる主体が異なることで発生します。

モラルハザードの具体例

モラルハザードの具体例としては、以下のようなものがあげられます。

分野具体例
保険自動車保険に加入していると、安全運転をしなくなる
金融銀行が預金保険に加入していると、リスクの高い融資を行う
企業経営者が会社の損失を株主に負担させられると、リスクの高い投資を行う

このように、モラルハザードは、様々な分野で見られる現象です。

モラルハザードがもたらす影響

モラルハザードがもたらす影響としては、以下のようなものがあげられます。

  • リスクが増大する
  • 社会的に望ましくない行動が増える
  • 保険料や保証料が高くなる
  • 本来保護されるべき人が保護されなくなる

このように、モラルハザードは、社会全体に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、モラルハザードを防ぐためには、保険や保証の設計を工夫したり、リスクをとる主体に一定の責任を負わせたりするなどの対策が必要です。

以上、モラルハザードについて解説しました。モラルハザードは、私たちの身近に存在する現象ですが、それがもたらす影響は小さくありません。モラルハザードについて理解を深め、適切に対処していくことが重要です。

モラルハザードが発生しやすい状況

モラルハザードは、特定の状況下で発生しやすい傾向があります。ここでは、モラルハザードが起こりやすい代表的な状況について解説いたします。

情報の非対称性がある場合

モラルハザードは、情報の非対称性が存在する状況で発生しやすくなります。情報の非対称性とは、取引や契約に関わる当事者間で、保有している情報に偏りがある状態を指します。例えば、保険契約において、被保険者は自身のリスクについて保険会社よりも詳しい情報を持っている場合があります。このような情報の偏りがあると、リスクの高い行動をとっても、その結果を他者に転嫁できると考えてしまう可能性があるのです。

リスクと責任の所在がずれている場合

また、リスクを負担する主体と、リスクから生じる結果の責任を負う主体が異なる場合にも、モラルハザードは起こりやすいと言えます。例として、企業の経営者が、自身の判断で行ったリスクの高い投資によって生じた損失を、株主に負担させることができる状況が挙げられます。このように、リスクと責任の所在にずれがあると、リスクに見合わない行動をとってしまうインセンティブが働くのです。

監視・モニタリングが不十分な場合

さらに、リスクのある行動に対する監視やモニタリングが不十分な環境では、モラルハザードが発生する確率が高くなります。十分な監視体制が整っていない状況では、リスクの高い行動をとっても、それが発覚しにくいと考えられます。そのため、リスクに見合わない行動をとるインセンティブが高まってしまうのです。適切な監視・モニタリングの仕組みを構築することが、モラルハザードの防止に役立ちます。

ペナルティや罰則が機能していない場合

加えて、モラルハザードは、リスクのある行動に対するペナルティや罰則が十分に機能していない場合に発生しやすい傾向があります。リスクの高い行動をとったとしても、そのような行動に対する制裁が弱ければ、行動を抑止する効果は限定的だと考えられます。一方、ペナルティや罰則が適切に設定され、確実に執行されることで、リスクに見合わない行動をとることを思いとどまらせる効果が期待できます。

以上のように、モラルハザードは、様々な状況で発生しうる現象です。モラルハザードが起こりやすい環境を理解し、情報の共有、リスクと責任の一致、適切な監視体制の構築、ペナルティの設定など、総合的な対策を講じることが重要だと言えるでしょう。

企業におけるモラルハザード対策

企業においてモラルハザードを防止するためには、総合的なアプローチが必要不可欠です。ここでは、企業がモラルハザードに対処するための主要な対策について、詳しく解説いたします。

コーポレートガバナンスの強化

モラルハザードを防止するためには、まずコーポレートガバナンスの強化が欠かせません。具体的には、取締役会の独立性を高め、経営に対する監督機能を強化することが重要です。社外取締役の選任や、指名委員会・報酬委員会の設置などにより、経営者に対するけん制機能を高めることができるでしょう。また、内部通報制度の整備・運用により、不正行為の早期発見・是正にもつながります。

インセンティブ設計の見直し

次に、経営者や従業員のインセンティブ設計を見直すことも有効な対策と言えます。報酬体系を、長期的な企業価値の向上と連動させることで、短期的なリスクテイクを抑制できるでしょう。ストックオプションの付与や、業績連動型報酬の導入などが考えられます。一方で、過度なインセンティブは、かえってモラルハザードを助長する可能性もあるため、バランスを考慮した設計が求められます。

内部統制の整備・運用

また、内部統制の整備・運用を通じて、モラルハザードの防止を図ることが推奨されます。業務プロセスにおけるリスク管理の仕組みを構築し、牽制機能を働かせることが重要です。具体的には、職務分掌の明確化、権限委譲のルール化、承認プロセスの設定など、業務の適正性を確保するための施策が考えられます。加えて、内部監査の実施により、内部統制の有効性を定期的に評価・改善していくことも必要不可欠です。

企業風土・文化の醸成

最後に、モラルハザードを防止するためには、企業風土・文化の醸成も欠かせません。コンプライアンスを重視し、倫理的な行動を尊ぶ組織文化を根付かせることが重要です。トップのメッセージ発信、社内研修の実施、行動規範の策定などを通じて、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識を高めていくことが求められます。そして、問題が発生した際には、適切な調査・対応を行い、再発防止につなげていく組織の姿勢が問われるでしょう。

以上のように、企業がモラルハザードに効果的に対処するためには、ガバナンス、インセンティブ、内部統制、企業文化など、多面的な取り組みを進めていく必要があります。これらの施策を有機的に組み合わせ、継続的に実践していくことが、モラルハザードのリスクを最小化し、企業の持続的な成長と発展につながるのです。

モラルハザード対策に役立つフレームワーク

モラルハザードへの対策を検討する上で、様々な理論やフレームワークが参考になります。ここでは、モラルハザード対策に役立つ代表的なフレームワークを紹介いたします。

エージェンシー理論

エージェンシー理論は、依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェント)の関係に着目し、情報の非対称性やインセンティブの不一致から生じる問題を分析するフレームワークです。モラルハザードは、まさにエージェンシー問題の一つと捉えることができます。エージェンシー理論の観点から、モニタリングの強化やインセンティブ設計の工夫など、モラルハザード対策の示唆が得られるでしょう。

ゲーム理論

ゲーム理論は、複数の意思決定主体が相互に影響し合う状況を数理的にモデル化し、各主体の合理的な行動を分析する理論体系です。モラルハザードが生じる状況も、ゲーム理論の枠組みで捉えることができます。例えば、プリンシパルとエージェントの間の戦略的な相互作用をゲームとしてモデル化し、均衡状態を導出することで、モラルハザードを抑制するための条件を明らかにできる可能性があります。

行動経済学

行動経済学は、人間の意思決定や行動を、心理学的な要因も考慮しながら分析する学問分野です。モラルハザードの問題も、単に経済的インセンティブだけでなく、心理的な要因が影響している可能性があります。行動経済学の知見を活用することで、モラルハザードを引き起こす心理的メカニズムを理解し、それに応じた対策を講じることができるでしょう。

ナッジ理論

ナッジ理論は、人々の選択を強制せずに、望ましい行動へと誘導する手法に関する理論です。行動経済学の知見を応用し、選択の文脈をデザインすることで、人々の行動を変容させようとするアプローチです。モラルハザード対策においても、ナッジの考え方を取り入れることで、リスクの高い行動を抑制し、望ましい行動を促進することが期待できます。

以上のように、モラルハザード対策を検討する際には、様々な理論やフレームワークを参考にすることができます。エージェンシー理論、ゲーム理論、行動経済学、ナッジ理論など、それぞれの観点から得られる示唆を組み合わせながら、効果的な対策を立案していくことが重要だと言えるでしょう。

まとめ

モラルハザードとは、保険や保証等により守られていると感じることで、リスクある行動を取ってしまう現象です。情報の非対称性やリスクと責任の不一致、監視不足、ペナルティの欠如等の状況下で発生しやすくなります。企業はガバナンス強化、インセンティブ設計見直し、内部統制整備、企業文化醸成等の多面的アプローチでモラルハザードに対処することが重要です。また、エージェンシー理論、ゲーム理論、行動経済学、ナッジ理論等の理論的フレームワークを応用することで、より効果的な対策立案が可能となるでしょう。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム